「でも完売したの見たでしょ?ここまで私が築き上げてきたものが、私を救ったんです。仲良くするだけでこんなに読んでもらえるなんて思わなかった~!みんなが好きなみいらさんが書くなら、何でも許されるみたいですけど……藤乃先生は、元々のいいねも少ないのに、これからどんどん読まれなくなるかもですね?」
だって同じようなもの書ける人間が、界隈に二人もいらないでしょ?
暗にそう言われていた。そうか、彼女は私が嫌いで、ここから消えて欲しくてこんな手の込んだ真似をしたのだ。欲を言えば、筆を折ったら彼女的には最高のハッピーエンド。触れているだけで気分が悪くなる本をテーブルに放り、私は一心不乱に会場を駆け出していた。惨めで仕方無かった。付きまとう影が語りかけてくる。聞こえないはずの悪口が頭上に飛び交う。
お前なんて、誰からも本当は必要とされてなかった。
そんなことは、ネタバレされる前から知っていた。

コチ、コチ。
一人きりの天井。無音の世界。スマホが震え、通知がポップアップする。
『――さんがあなたの呟きをいいねしました』
『――さんがあなたの作品をいいねしました』
好きなものを書ける人が、羨ましかった。それを貫ける強さが、私には無かった。
『藤乃さんて、お高く留まった小説ばっか書きますよね』
『あー!わかる!いかにも高尚古参BBAっぽいもん』
『あの人いつまでここに居座るのかな?正直投稿サイト埋めるの止めて欲しいよね』
『そうそう。こないだ私が投稿したすぐ後さー、藤乃さんの作品がばばばって挙がって引いたもん。そこまでやらなくても、どうせお前のなんか見ねーよ!』
「あはは……」
通話で交わされる会話に、ほとほと呆れていた。けど、あの人が失墜する姿も見てみたかった。一回痛い目見れば筆を折ってくれるだろうとも。
この人たちは、創作なんか好きじゃない。時間を割いて、心を込めても。そんなことなんかお構いなしに消費していくだけだ。二人が幸せであれば何でもいい。誰が書いたものでもいい。作者の意図なんかどうでもいい。絵がないから仕方なく字で補填している。
本当に、それだけなのだ。