イベントは時世なんて言葉を忘れるくらい人で賑わっていた。コスプレも解禁されているし、ほとんど以前のイベントと遜色ないように感じられる。一般参加でのんびり行けばいいや、と昼頃に到着するとみいらさんのスペースに『完売』の文字が書かれた紙がスタンドで吊られていた。
サンプルを見ていないのではっきりと言えないけれど、やっぱり完売なんだ、と思った。きっと原稿通話をしたフォロワーと盛り上がったネタで書いたものなんだろう、と。何度かイベントに本を買いに来てくれていたので、顔は覚えている。スペースに座って隣のサークル主さんと楽しそうに話しているみいらさんに視線を配り、軽く会釈した。
「こんにちは。お邪魔してすみません」
「きゃ~!?藤乃先生!ほんとに来てくれたんですね……!私なんかのために来て頂いてありがとうございます」
「そんな大袈裟な……はいこれ、つまらないものですが」
「わあ、めっちゃかわいいお菓子の包みですね!藤乃先生がこれを買う光景がさらにかわいいな~見たかったな~」
「やめてよそういうの!」
こうやって話していると、案外ツイッターのノリで話せるものだ。リアル世界では仕事用の固い口調でしか喋れない私でも、みいらさん相手だと軽口を叩ける。テンション高めの彼女は、いつもより各段に声を高くして、栗色の巻いた髪がはしゃぐ度くるくる揺れていた。真っ黒な髪を癖にならない長さでばっさり切っている私とは正反対だ。オタクあるあるだけど。
「先生用に本取り置きしといたんで、よかったら」
「ありがとう。今回のも楽しみだな」
笑顔で受け取った本は、表紙がいつもより落ち着いたデザインだった。既視感がある。私が自分で作る表紙と、ちょっとデザインの雰囲気が似ていた。
「帰ってから大事に読むね」
そう言って、長居するのも悪いからとその場を立ち去ろうとして、みいらさんがはっとして「待って」と声を絞り出し、椅子から立ち上がった。鬼気迫る表情に思わず足を止める。
「あ……あの!もしお時間あればなんですけど。今読んでくれませんか?」
「スペース前に居座ったら邪魔になりますし、今はちょっと」
「お願いします」
いつになく真剣だった。みいらさんが頭まで下げたので、慌てて彼女に駆け寄り「分かったから顔上げてください」と周囲の視線が突き刺さる中説得する。
「読み終わったらまた連絡しますから。すぐ読んできます」
サンプルを見ていないのではっきりと言えないけれど、やっぱり完売なんだ、と思った。きっと原稿通話をしたフォロワーと盛り上がったネタで書いたものなんだろう、と。何度かイベントに本を買いに来てくれていたので、顔は覚えている。スペースに座って隣のサークル主さんと楽しそうに話しているみいらさんに視線を配り、軽く会釈した。
「こんにちは。お邪魔してすみません」
「きゃ~!?藤乃先生!ほんとに来てくれたんですね……!私なんかのために来て頂いてありがとうございます」
「そんな大袈裟な……はいこれ、つまらないものですが」
「わあ、めっちゃかわいいお菓子の包みですね!藤乃先生がこれを買う光景がさらにかわいいな~見たかったな~」
「やめてよそういうの!」
こうやって話していると、案外ツイッターのノリで話せるものだ。リアル世界では仕事用の固い口調でしか喋れない私でも、みいらさん相手だと軽口を叩ける。テンション高めの彼女は、いつもより各段に声を高くして、栗色の巻いた髪がはしゃぐ度くるくる揺れていた。真っ黒な髪を癖にならない長さでばっさり切っている私とは正反対だ。オタクあるあるだけど。
「先生用に本取り置きしといたんで、よかったら」
「ありがとう。今回のも楽しみだな」
笑顔で受け取った本は、表紙がいつもより落ち着いたデザインだった。既視感がある。私が自分で作る表紙と、ちょっとデザインの雰囲気が似ていた。
「帰ってから大事に読むね」
そう言って、長居するのも悪いからとその場を立ち去ろうとして、みいらさんがはっとして「待って」と声を絞り出し、椅子から立ち上がった。鬼気迫る表情に思わず足を止める。
「あ……あの!もしお時間あればなんですけど。今読んでくれませんか?」
「スペース前に居座ったら邪魔になりますし、今はちょっと」
「お願いします」
いつになく真剣だった。みいらさんが頭まで下げたので、慌てて彼女に駆け寄り「分かったから顔上げてください」と周囲の視線が突き刺さる中説得する。
「読み終わったらまた連絡しますから。すぐ読んできます」