東京は本当に人だらけだった。
 この街に来た理由は人が多かったかもしれない。
 見知らぬ人でも、大勢に囲まれているとなぜか心が休まる。

 俺は渋谷にいた。
 ボロボロの服で都会を歩いていると必然的に白い目で見られる。
 でも、そんなことはどうでもいい。

 俺は小さな公園に入り、蛇口から水をがぶ飲みした。
 水を飲んでいると、傍にいた子供達がみんな逃げ出した。
 フン、魔王に相応しい光景だな……。

 飲み終わって、振り返ると子供達が逃げ出した理由が分かった。
 そこには俺より汚い、ミノムシのように稾を体に巻いた爺さんが立っていた。

「ふぉふぉふぉ、魔王様。お初にお目にかかります」
 その爺さんは不気味に笑っている。
 よく見ると、その黒い目からはウジが湧いていた。
「てめぇ、魔族か」

「いえ、正確には妖怪ですな」
「んなことはどうでもいい。殺されたくなかったら、さっさと失せろ」
 俺は爺さんを無視して、その場を立ち去ろうとした。
「……お待ちくだされ」

「なんだよ、お前らバケモンはこの心臓が欲しいだけなんだろ?」
 俺は振り返って、自分の胸を叩いてみせた。
「四の五の言わずに、掛かって来いよ」
 そう言うと、妖怪は笑った。

「我ら、悪名高き妖怪と言えども、そのような大それたことはしませぬ。我らの望むことは一つ。大いなる力の共存、または融合。つまり、あなた様の、魔王様のお力を借りたいのでございます」