ハークから渡された服は少し刺激的だった。
魔族の流行服なのかもしれないけど……。
色は白。
上の服はタンクトップのようなものなんだけど、サイズが小さいから、服の上からでも胸の形がくっきり見える。
ヘソも丸出しで、とても恥ずかしい。
同じく下の服も、お尻の形がくっきり見えてしまうホットパンツ。
気をつけないと、パンツが見えちゃう……。
靴も白いスニーカー。
とにかく、白で統一されてしまった。
着替えを済ました私は、廊下に出て、ハークのいる指令室に向かった。
向かう途中で、なにやら頭の上がガタガタうるさいので見上げると、空気口の金網から、青い物体が振ってきて、私の顔面に直撃した。
「いった~い!」
「あ、ごめん。お姉ちゃん」
降ってきた青い物体は、青い子猫のペータンだった。
「ペータン! なんで、君がここにいるの? さっき、戦艦が出る前に、外に出たんじゃなかった?」
「し~、ハーク様に見つかるだろ……そうだ、お姉ちゃんの中に隠れさてよ!」
「え?」
「こうするんだよ」
ペータンは飛び上がって、モゾモゾと私のタンクトップの中に入り込んだ。
「なにしているの?」
私の胸の中でペータンは囁いた。
「大丈夫、大丈夫」
ペータンがもぐりこんだおかげで、私の胸はかなり大きくなった。
なんか、不自然なバスト。
私はしょうがなく、指令室に入った。
「着替えましたよ」
ハークにバレるのではないかとビクビクしながら、近づいた。
「うむ、着替えたか。どれどれ……」
ハークが私の方に振り返った。
「お、おぬし……胸が……」
彼は引きつった顔で、固まってしまった。
「に、似合います?」
「あ、ああ、似合っているよ。ワシの死んだ娘の服じゃが、似合っておるよ」
私はハークの亡くなった娘さんは相当、グラマーな人とだったんだな、と思った。
「まだ、現地に着くまで時間がある。休んでいなさい」
秘密基地は地下にあったので、私は時間というものを忘れていた。
気がつけば、施設から出て丸一日が経っていた。
もう一度、乗員室に戻ると、ベッドに横になる。
瞼を閉じると、自然と眠りにつく。
「……ちゃん……お姉ちゃん! お姉ちゃんってば!」
目を開くと、胸の上でペータンが騒いでいた。
「あ、ペータン……。どうしたの?」
「着いたんだよ。フランスに……」
「え、本当!」
私はベッドから降りて、窓の外を見た。
「うわぁ……」
遥か空から見下ろした下界は、緑の森で埋めつくされていた。
その森の中心には大きな古城がある。
「すごいな~」
私はペータンを胸の中に入れると、再度、指令室へ向かった。
「おお、真帆。着いたぞ」
「はい、なんか、絵本で見たお城みたいですね」
「そうか、おぬしは初めてか……しかし、あの城こそ、邪悪そのもの……」
突然、指令室のモニターから叫び声が聞こえた。
「……ジイ……ジジイ、おい、ジジイ! 聞こえるか!」
モニターに映っていたのは、ルクスだった。
気のせいか、焦っているように見える。
「どうした? ルクス」
「早くそこから逃げろ!」
「なんじゃと?」
「他のヤツらに先を越されていたんだ! ちょうど、ジジイの戦艦の真上にいる」
ハークの顔が凍りつく。
「い、いかん! 舵を回せ!」
もう、その時は遅かった。
ぼんっ!
なにかが、小さく爆発した。
その直後に指令室のコンピュータが、危険を察知して電子音を激しく鳴らす。
艦全体が大きく揺れ出す。まるで、地震のような揺れだ。
胸の中に隠れていたペータンの毛が逆立っていた。
何かを恐がっているようだ。
ハークの方を見る。
小さな顔から、どっと汗を流して、その場で突っ立っていた。
「つ、墜落する……」