「これが、わしの知っている〝マザーの戦い〟の全てじゃ」
 ハークは氷がとけて温くなったジュースを一気に飲みほした。

「な、なんか、私が今まで悩んできたこととか、生きてきたことが小さく感じます」
 私はかたくなったハンバーガーをテーブルの上に置いた。

「そりゃ、突然、ワシらのことを聞かされれば、誰でも驚くのう。じゃが、おぬしら人間も捨てたもんじゃない。確かに、わしらのように戦争も繰り返したし、まだ戦争をやめない国もある……じゃが、わしらが、おぬしらに感心したことがある。それは学ぶということじゃ。わしらなんぞ、戦争の無益さに気がつくまで、地球を四つも壊してしまった。人間の学習能力は半端ではないな」
「そう……かもしれませんね」
 私とハークは目を合わせ、お互いに笑みを浮かべた。

 ハークがまた、ご自慢の長髭に手を触れる。
 その時だった。
 廊下から「ドタドタ」と足音をたてて、猫人間が血相を変えて部屋に入ってきた。

「失礼します、ハーク様」
「なんじゃ、騒がしいのう」
「〝悪魔の蓄音機〟が見つかりました」
 それまで、優しい目をしていたハークが、恐ろしい獣の目をした魔族の顔になった。