その日、私はおろしたての浴衣を着て、慣れないルージュを友だちに塗ってもらい、花火大会の会場である海峡へと向かった。
 だが、その日、花火は打ち上げられなかった。

 その日、私を待っているひとはいなかった。代わりに、真っ黒で入道雲のみたいな巨人が海峡の前に立っていた。
 とても、とても、こわい顔をしていた。
 でも、なんだか寂しそうな目をしていた。

 そして、花火の代わりに、一筋の大きな光りが空へと昇っていった。
 とても、きれいだった。
 でも、その光りは大勢の人々をまきこんで、空に消えた。私はそれを見るのがとても、くるしかった。

 その日……その日……その日、先輩は来なかった。