「──あ、よければいる?」


 おもむろにそれを掴んで、私に向ける。


「え、でも、それじゃあ先生……」

「大丈夫よ。これ、いくつももらってるの。自分のファンを増やすために写真に興味ある子に渡してくれって頼まれてるの」


 ……自分のファンを増やすため?

 よく分からなかったけれど、これをもらって先生が困るわけではないらしい。


「じ、じゃあ……ありがとう、ございます……」


 先生から写真を受け取った。


 それはあまりにも綺麗すぎて、思わず頬が緩む。


「三好さん、写真好きなの?」

「あ、いえ、特別好きっていうわけではなく、でも嫌いなわけでもないんですけど……」


 自分の気持ちをまっすぐ伝えるのが苦手で、いつも最後になると何を言いたかったのか相手に全然伝わらない。

 私が伝えたいのは、そんなことじゃなくて。


「心が、動いたというか……」


 さっきまで嫌なことを頼まれて憂鬱だったのに、いつのまにかその感情はどこかへ消えていた。


「じゃあ、SNSも見てみるといいわよ」


 返却用プリントを書き終えた先生が、そんなことを言った。


「え?」

「その子ね、日常の写真をアップしてるみたいなんだけど、先生もフォローして見てるんだ。ほんとにすごく綺麗なのよね」


 私が胸の前で掴んでいた写真を「ちょっと貸して」と掴むと、写真の裏側を向けて。


「ほらここ、URLが書いてあるでしょ? ここから写真が見られるわよ」


 先生が指をさした、その先には。


【この写真を手にとってくれてありがとう。
 もしよければ他の写真も見てもらえると嬉しいです。】


 短い文ではあるが、手書きで書かれていた。

 それはとても繊細で、一字一字が同じ大きさで書かれていた。


「あ、この写真撮ってるのは男の子なんだけど、彼が撮る写真はすごく綺麗なのよ」

「……え、男の子なんですか?」

「うん。あ、名前はーー」


 と言いかけてハッとした先生は「あぶないっ」と口を覆って、


「内緒にしてほしいってお願いされてるんだった!」


 と、慌てた様子だった。


「男の子がこんな素敵な写真撮るなんて……なんか、すごい……ですね」


 ううん、すごいなんて言葉だけでは足りないくらい。


 もっと彼のことを知りたくなる。


「……どんな生徒なんですか?」


 だから、素直に興味が湧いたんだ。

 こんなに綺麗な写真を撮る彼は、どんな人なんだろうって。


 すると、「んー、そうねえ」と顎に指を当てながら、しばらく考えたあと、


「すごく心が優しくて穏やかな子かなぁ」


 と、表情を緩めていた。