「ゆ、許すとか許さないとかじゃなくて……私も、嘘ついて自分を、偽ってたから……お互いさまっていうか、えっとあの……」


 しどろもどろになる私は、やっぱりなにひとつ変われていなくて。

 そんな私の言葉を汲み取ってくれた彼は、


「じゃあ俺、これからも三好さんに話しかけてもいいの?」


 全然、怖くなんかなくて、すごくすごく優しくて。


「……う、うん」

「SNSだけじゃなくて、こうやって声かけてもいいの?」

「う、うん……」

「ほんとに?」

「ほ……ほんと、です」


 だって私が好きになったのは、田中くんではなく、SNSで私を勇気づけてくれていたきみだから。


 ずっと優しい言葉をかけてくれたきみだから。

 私を怖がらせないためにしゃべり方を気をつけてくれたのは、〝騙す〟とかではなく〝気遣い〟で。

 それは、彼自身が優しい人だから。


「わ、私もずっと……直接しゃべってみたいって、思ってて……」


 私は、ずっと〝変わりたい〟って思っていた。


 弱虫で自分の思いを伝えるのが下手な私じゃない、新しい自分に変わることを。

 でも、そんなの無理だって。

 どうせ変われないって。

 諦めて、今の現状を飲み込んでいた。


 クラスメイトから頼まれることにも断れずに、受け入れて。

 でも、きみだけは優しかった。

 いつも投稿される写真を見て、そのコメントを見て、勝手に自分を励ましてくれてるんだと思った。

 そのおかげで勇気も、元気ももらっていた。


「こんな俺が言うのもあれなんだけど……」


 と、言って一歩私へ歩み寄り。


「SNSじゃなくて今度は……この世界で、俺と一緒に過ごしてほしい」

「えっ……?」


 弾けたように顔をあげると、そこには、すごく優しい表情をした佐々木くんがいて。


「お互いのこともっと知るために、放課後、一緒に帰りませんか?」


 真っ直ぐ向けられた手のひら。

 その手は大きくて、ゴツゴツしていて。

 スマホの小さな世界ではなく、現実世界で起きていることなのだと実感する。


「……はいっ……!」


 小さく控えめに、指先を握ると、


「よかった」


 口元に弧を描いた彼は、すごく優しい表情をしていた。


 ーー六月にきみと出会って、

 はじめは、顔も名前も声もなにひとつわからなかった。

 それはまるで、蜃気楼のようだった。