「見た目がこんなんだからふつーにしゃべっても怖がられるし、だったら怖がらせないようにしゃべり方も自分らしくないようにって偽るしかなくて、名前だって勝手に田中のを借りた。あいつは全然、何も知らないから怒らないでやって」
声は、とても力がなくて弱々しくて今にも消えてしまいそうで。
「三好さんに〝田中くん〟って聞かれたときも、ほんとはすげー困ったし、迷った。ちゃんと説明した方がいいって頭では分かってたから」
……あ、だから昨日は、いつもより返事が遅かったのかな。
「でも、ずっと言えなかった。このまま自分じゃない誰かに思われた方が都合いいなって、そのまま三好さんと仲良くなれたらってずるずると時間だけが過ぎて」
頭をがしがしとかいて、「……まあ結局、全部自分のためだったんだけど」と表情はとても申し訳なさげだった。
「だから、ずっと三好さんのこと騙しててごめん。許されないことしてたと思う。いくら近づきたかったからっていっても、許してくれなくても仕方ねーなって思う」
騙されたというのは、なんか違う。
しっくりとこない。
「田中のフリして三好さんと話してたのはほんと申し訳ないけど。でも、三好さんにかけた言葉や思いは嘘じゃないから」
だって私は、少なからず彼に勇気をもらっていた。
いつも優しくしてくれた。
それは、隠しようのない事実だから。
「だけど、嫌な思いさせたのは事実だから、もう学校でも話しかけたりしねーし、SNSもやめるし……だから、」
私が許さなかったら、きみはどうするんだろう?
「ほんとにそれでいいの……かな」
「え?」
ーー気がつけば、私の口は勝手にしゃべりだしていた。
「せっかく素敵な写真ばかりなのに辞めちゃうの、もったいないと……思う」
「いや、でも……」
「せっかく毎日素敵な写真撮って投稿して、今までの思い出があるのに……その写真を見て勇気を、元気をもらえてる人がたくさんいるのに……」
今まで紡いだ時間を、思い出を、全部捨ててしまうのは絶対に間違っていると思う。
「わ、私だって……勇気もらえてたひとりなのに、もう二度と見られなくなるなんて、すごく寂しい……」
それに、ここで逃げるのは正しい選択とは呼ばない。
私たちが、出会えたのはほかでもないーー
「せっかく……SNSがあったおかげで、私たち繋がることができた、のに……」
見失いたくないものは、守りたいものは、たったひとつ。
繋がりをなかったことには、したくない。
「それを全部、なかったことにするなんて……私は、いやだよ……っ」
私たちは、お互い〝自分〟を偽って違う誰かになろうとして嘘をついた。
けれど、言葉や思いには真実があった。
「じゃあ俺のこと許してくれんの?」