「山田じゃないんだ、俺」


 本棚の向こう側から現れた彼は、茶色い髪の毛をしていた。山田くんとは似ても似つかないほどに対照的で、少し不良っぽく見える。


「今までずっと騙しててごめん。俺の名前、佐々木帆波って言うんだ」


 紡がれる声は、あの日聞いた山田くんの声とはちがった。

 全部がちがって、困惑して、


「え、ちょっと待って……」


 全然理解が追いつかなくて、口の中が急速に乾いていく。

 私はずっと山田くんだと思ってしゃべっていたのに、突然違う人が現れて。


「混乱させてほんとごめん。今さら言い訳しても無理かもしんないけど、ちゃんと説明だけさせてほしい」


 少し荒っぽい声なのに、どこか申し訳なさを感じてしまうのは、彼の思いが言葉に乗っているから?


「……う、うん」


 だから私は、気がつけば小さく頷いていた。


「俺、何度か三好さんのこと見てるんだ。図書室で」

「えっ、私の名前……」

「あー、それは先生に聞いた。三好さんの知らないとこでストーカーみてーなことしててごめん」

「あ、いや……」


 名前聞いたくらいでストーカーだなんて思ったりしないけど。


「それで、田中の付き添いで図書室来るようになったんだけど……あ、田中ってのは俺の友達で」


 あっ、じゃあ田中くんと一緒に図書室に来てたもう一人が〝佐々木くん〟だったの?


「なんかいつも三好さん元気ないなって思って、それがすげー気になって」


 ……うそ、私見られてたんだ。


「どうしたら元気にしてあげられるんだろーって考えて、三好さんに笑顔になってほしいって思っていろんな写真撮った」

「え……あの、写真が……」


 全部、私に向けられたものだったの?


「うん。でも、いきなり声かけても困らせるし怖がらせるだけだと思って近づけなかった。だから代わりに先生に頼んだんだ。写真を三好さんに渡してほしいって」


 あのとき先生は、〝SNSも見てみたら?〟って私にすすめてくれた。写真はたくさん持っていて、自分のファンを増やすためにって言っていた。


「で、でも、先生からは……」

「うん、たくさんもってるって言われたんでしょ。それも俺が頼んだ。三好さんだけに怪しまれず渡すには、そうするしかなくて」

「えっ、私だけに……?」


 どうして……


「気になったから、三好さんのこと」


 ーー佐々木くんの言葉は、繊細とは言い切れないくらいのしゃべり方で。


「どうやったら力になれんのかなとか近づけるんだろうって思って、ずっと見てた」


 真っ直ぐ向けられた言葉は、思いは、深く私の心に浸透して。