翌日の朝、いつもより早く学校についた私は、スマホをかばんから取り出した。
山田くんからは、まだ連絡はない。
そわそわして落ち着かなかった私は、プリントとスマホを持って彼を探しに行く。
屋上や山田くんとすれ違った一階の廊下、校舎裏の紫陽花が咲いている花壇。どこを探しても彼の姿はない。
あとひとつ思い当たる場所とすればーー
「……し、失礼します」
ゆっくりとドアをスライドさせて、中を確認しながら図書室の中へ入る。
誰もいないのに緊張してしまうのは、ここではじめて山田くんと出会ったからだ。
たしか私が窓際のこの辺りで、そして山田くんが……
ーーピコンっ
通知音が鳴り、スカートのポケットからスマホを取り出した。
【今、どこにいる?】
やっぱり送り主は、山田くんだった。
【図書室にいるよ】
送ったあと、プリントを見つめた。
一字一字が同じ大きさで、繊細で、綺麗で。
気持ちは、文字に表れるという。
だから山田くんは、すごく穏やかな人で、それでいて心が綺麗な人。
あれだけ素敵な写真を撮るんだもん。
【ねえ、ひとつ聞いてもいい?】
えっ……急にどうしたんだろう。
【うん、大丈夫だけど……】
送ったあと、すぐに返信が返ってくる。
そうして画面に映し出されていたのは。
【もしもきみが思ってるような僕じゃなかったら、どうする?】
という内容だった。
え、私が思ってるような山田くんじゃなかったら……?
【それって一体どういう……】
【僕に対して思ってる人物像みたいなものが全くの嘘だったら、きみは僕を軽蔑する?】
軽蔑? 私が山田くんを?
そんなのーー…
【軽蔑したりしないよ】
だって、それはむしろ私の方こそ。
【山田くんに嘘ついてるのは私の方だから】
ありのままの自分でいないのは、山田くんじゃなくて私だから。
ーーガタッ
突然、本棚の向こう側から音がして、なにかが動いた気配がした。
「も、もしかして……そこに山田くんいる?」
恐る恐る声をかけると、「うん」本棚越しに、はっきりと聞こえた。