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かばんの中から現れたそれに、私はまだ返していなかったことを思い出す。
「これ、どうしよう……」
あれから返すタイミングを見失ったまま、田中くんのプリントは私の手元に残っていた。
拾ってから、もう一週間が過ぎている。
今さら返されたってもう必要なくなっているかもしれない。
でも、本人に知らせないまま勝手に捨ててしまうのも気が引ける。
「うーん……こんなとき、どうすれば……」
ぐるぐると頭で考えた末、
「やっぱり返すべきだよね」
一週間前に拾ったものでも、すでに必要ないものだとしても、それを決めるのは本人なわけで。
私は、迷わずSNSを開いて田中くんとのメッセージのやりとり場所へと移動した。
【いきなり連絡してごめんなさい。一週間前に田中くんのプリントを拾ったのを、忘れてしまっていて……】
これで、大丈夫かな? おかしなこと書いてないよね?
……うん、大丈夫。
ーー送信ボタンをタップすると、一分ほどして返信が返ってくる。
ええっ、うそ、早い……!
怒ってたりしないかな、なんで今さら言うんだよって……
目を細めながら、恐る恐る画面を確認する。
【あ、ほんと? だから探してても見つからなかったんだ。拾ってくれてありがとう。失くさないですんだよ】
よかったぁ、怒ってないみたい。
【もっと早くに連絡したらよかったんだけど……ほんとにごめんね!】
【ううん、大丈夫だよ。むしろ感謝してる】
感謝だなんて、そんな……
やっぱり田中くんは優しい人だ。
【それでこれどうしたらいいかなって思って連絡してみたんだけど……】
手元にあるプリントに目を落とすと、一字一字が同じ大きさで丁寧に書かれているのが分かる。
それを見て思わず頬が緩む。
【じゃあ、明日学校で渡してもらえる?】
しばらくして返ってきた返事は、それだった。
「えっ……直接ってこと?!」
うそ、いきなり……?
どうしよう、会いたいとは思ったけど。
でも、いきなりこんなことになると、判断ができない弱虫な自分。
【……明日、学校で?】
【うん。拾ってくれたお礼もしたいから】
お礼なんて、そんなの。
その気持ちだけで十分すぎるくらいなのに。
それに、会ってもちゃんと話せるか分からない。
不安しかなかった。
それなのに、
【うん、分かった】
不安なこと全部吹き飛ばしてしまうくらい会いたいと思ってしまうのは、事実で。
【じゃあ明日の朝、学校で】
はじめてしたきみとの約束は、そんなことだった。