ーー彼のSNSが、新しい時を刻む。


【空に浮かぶ七色の虹。きみに幸せを運びますように】


 そのコメントと共に、綺麗な虹がくっきりと添えられて。

 これどこから撮ってるんだろう。

 見晴らしがすごくいいっていうか、周りの建物が小さく見える。


 もしもまだこれが校内で撮られているのだとしたら、思い当たる場所は屋上?

 グラウンドの中央あたりまで駆けて、くるりと振り向いて空を見上げる。


「……あっ、」


 逆光が反射して、あまりよく見えないけれど、屋上に人影があるように見えた。

 遠過ぎて顔は見えない。

 姿もよくわからない。


 でも、この写真を撮ったのは、きっとあの場所。

 だったら、彼に間違いはない。


 私は、グラウンドから踵を返して昇降口へ向かった。

 慌てて上履きに履き替えると、走った。


「こらー、廊下は歩きなさい」


 先生の注意に、「ごめんなさい!」一度立ち止まって、先生がいなくなるのを確認すると、また駆けた。


 そうして、屋上までの階段を駆け上がり、重たい鉄格子の扉を押し開ける。


「……山田くん!」


 大きな声を張り上げた。

 けれど、そこはもぬけの殻。


「うそ、もういない……!」


 さっき見たときは、たしかにここにいたのに。

 今はがらんとしていて。

 私が先生に引き留められたときに屋上から降りたのかな。

 せっかく会えると思ったのに。

 360度、回転しながらあたりを見回すが、どこにも姿はない。


「あー……」


 落ち込んで、フェンスに手をついた。


 ーーが、目の前に広がっていた空を見て。

 胸が高鳴った。


 そこに見えたのは、さっき彼がSNSにアップしていた虹が、たしかに存在していた。


 ここで山田くんが……

 おもむろに握りしめたままになっていたスマホを掲げて、それを照らし合わせる。


 仮想空間に映し出されるそれと、現実世界に存在するそれは、間違いなく同じもの。

 彼が、ここで写真を撮ってアップした。


 他の生徒は、虹にも目もくれず帰路へ急いでいるのに、私と彼だけが〝虹〟に足を止められて。


 ーー同じ時間を、同じ気持ちを共有している。

 それがすごくすごく、嬉しくて。


【虹を見て、私まで幸せになったよ。ありがとう】


 感動が冷めないうちに送信した。


 そうして空を見上げる。

 記念に一枚自分でも写真を撮る。


 山田くんほどうまくはとれなくて少し見切れているけれど。


「……やっぱり綺麗」


 自然と頬が緩んでしまう。

 この空の下、どこかで山田くんも私と同じ気持ちだったら嬉しいなあ。


【幸せをお裾分けできて、よかった】


 そのあとすぐに返信が来て、山田くんの声でリピートされた。

 私は、今日撮った綺麗な虹を、待ち受け画面に設定した。