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 今日のお昼休みは、また〝山田くん〟を探していた。


 探してどうするんだろう。

 それは、考えていなかった。


 山田くんに私が、いつもやりとりをしている人物だと知られたら大変なのに。

 それでも、一目見たいと思ってしまう。

 その欲望には、勝てなくて。

 
 早くお弁当を食べ終えた私は、山田くんを探すために校舎の中をあちこち走った。


 ーーピコンっ

 突然、スカートのポケットに入れているスマホが音を鳴らす。

 もしかして山田くんかな、そう思った私は慌てて立ち止まり、スマホをすぐに取り出した。

 それはやっぱり彼からで。


「あっ……!」


 思わず声を上げるが、ここが廊下であることを思い出し慌てて口を押さえた。


【雨が降ったあとの雫が紫陽花に乗って、キラキラしてる】


 そこには、色とりどりの紫陽花が映っていた。


 ーーこれは、校舎裏の花壇に咲いているやつだ。


 キュッと上履きが擦れる音を立てながら、踵を返して校舎裏へと向かった。

 お昼休み前まで降っていた雨は、すっかり止んで晴れ間が見える。

 私たちがいる場所は、時間軸は、全く同じだ。


 この奥に、山田くんがいるんだ。


 ーーどきどき、ざわざわ。

 鼓動がうるさくなる。


 でも、あと一歩の勇気が出ない。

 どうしよう。早くしなきゃいなくなっちゃうのに……

 ……あっ、スマホ!


【紫陽花、とても綺麗ですね。見ている私まで嬉しくなる】


 指先で画面を弾いて打ち込んだ。

 すると、一分もしないうちに返信が送られる。


【僕、紫陽花が一番好きなんだ。だから、喜んでもらえてよかった】


 数日前に聞いた、山田くんの声で。

 山田くんの表情が頭の中で、リピートされる。


 ーーどうしよう。

 会いたくて、たまらなくなる。


【紫陽花が一番好きなの?】

【うん、好き】


 壁を隔てた、私たち。

 スマホの中の仮想空間は、同じ時間を共有している。


 会いたい。

 でも、会えない。


 それは、今の私じゃ勇気が出ないから。

 それに、こんな弱虫で、自分の気持ちを伝えることが下手な私が直接会ったって、きっと思いを伝えられない。

 だからまだ、会えない。


 校舎裏の壁に背もたれて、スマホの中に視線を落とす。

 そうすれば、山田くんに少しでも近づけているような気がしたから。