雲一つない、青空。
 はーっと吸い込む空気は湿っていて、皮膚の表面には何もしなくてもじわっと汗をかく。
 青春ど真ん中。高校2年生の夏が来た。

 「ピンク、今日は何で休んできたの?」

 「今日は、えーっと、腹痛!」

 「それ、先週も使ってなかった? うまくやらないと学校にバレないように。」

 「あおたん、私は似た様な理由の方がいいんじゃないかって思ってました。いつも頭が痛い人になってる。」

 「やっぱ体調不良の方がいいかな? 私『家の事情』で通してる。」

 「レモン、それはよくないよ。お家の人にバレたら…。」

 「大丈夫。ママには『学校行きたくないけど正直に言いたくない』って言ってあるから。」

 そう、今日はど平日。活動初期は放課後の動画撮影と土日のレッスンで事足りていたが、私のいじめ投稿がバズり、平日も活動しないと間に合わないくらい忙しくなっていた。

 2年生になって3か月。出した新曲は3曲。最新曲「青春ブルーハワイ」は私が作詞、スカイが作曲、レモンが振り付けを担当している。これがまた「満腹ショートケーキ」以来の日本中に轟く大ヒット。おかげで週末に始めたライブは平日も入り始めてきている、という売れ具合なのである。

 「ピンクたん。今日もいやされに来たよォ!」

 「赤たん、今日もお仕事お疲れさま。忙しいのにきてくれて、ありがト!」

 ライブには必ず赤たん、こと私の天敵担任教師、米澤赤福も駆けつけている。疲れるほど仕事をしていないのも、忙しいほど仕事を任されていないのも知っているが、ここはベビーピンクとして、徹底的にファンを立てる。

 「ありがト! 生意気高校生に囲まれてヘトヘトだけど、疲れ吹っ飛ぶよォ。」

 この握手会が結構イヤだ。ファンの人たちはいいのだが、必ずやってくる米澤赤福と握手をするのがすこぶるイヤ。学校にいる時とさして変わらない脂ぎった頭に暑さもあり汗がひかない手。お父さんに触れるのもイヤなのに仕事とはいえちょっとキツくなってきている。

 「また来るからね! 絶対紅白、いくでちゅよォ!」