「そういうのは起きてないよ」
ご飯を口に運びながら肩をすくめる私を、母はまだくすくすと笑っていた。べつにそんなに信じてるとかじゃないって。心の中でそう不満を抱えながら、私はこの話題を口にすることをやめた。実際に文化祭でおばけに触れる機会が多くなったから思い出しただけで、本当に気にしてはいない。
 文化祭が近づくにつれ、クラスに落ち着きがなくなってきた。放課後に準備をするせいで、授業中に内職をする生徒も増加傾向にあった。生物の先生が板書を進めながら、昼寝をしたり、数学の問題を解いたりしている生徒を一瞥しながら授業を進めていた。
「というわけで、遺伝子には優劣がある訳ですね。でも遺伝子が優れているとか、劣っているとかの優劣ではありませんよ。子孫に反映されやすい傾向にあるかどうかという、ただそれだけです。最近は顕性と潜性というのが一般的になってきましたね」
先生は教科書をぱらぱらとめくりながら、人間の血液型を例に出した。両親のどちらかがAB型だと、O型の子どもは生まれないらしい。
「まあ、例外としてシスAB型だとO型が生まれる事もありますが・・・。林田君、そろそろ起きようか」
目の前で突っ伏す生徒の机をとんとんと叩きながら、先生がため息をつく。斜め前の席の泉さんが振り向いて、笑っていた。彼女は、のんびりとしてどこか哀愁の漂うこの先生が好きなのだ。寝ぼけ眼であたりを見渡す林田君を確認すると、先生は再び教壇に戻り授業を再開したが、やはりクラスに集中力はなかった。私も昼過ぎの穏やかな雰囲気で、うとうとしだし、ノートをとる手が止まり、眠ってしまった。六時間目の古典は起きている生徒の方が少なかったらしいが、不思議なことに放課後になった瞬間、クラスは騒がしくなり、活気を取り戻した。翌日のホームルームで担任がそのことを指摘したが、文化祭当日が明日に迫っているという事もあり、誰も気にはしていないようだった。
 文化祭当日は大盛り上がりで、私達のクラスは見事、出し物の賞を取ることができた。今年は父も母も仕事で来ないと言っていたが、仕事が早く終わったらしく、夕方の終了間際に少しだけ顔を出してくれた。
息を切らして登場し、すぐさま終了時間を知らせるアナウンスが流れ、帰って行く二人を見ながら泉さんが笑った。