教室の前で涼と別れ、私は先に行ってくれた泉さんにありがとうと伝えた。彼女は別に別に、と手を振りながら先程の話の続きをしながら、一緒に撮った写真を見せてきた。けれど廊下を杉野本人が通り過ぎていくのに気がつくや否や、彼女は私そっちのけで煌びやかな笑顔になったので、思わず吹き出してしまいそうだった。泉さんは案外、こういう事には単純だ。普段は猫のようにつんとしているが、本当に好きな人には子犬のようになつくのだ。その後すぐに担任の先生がやってきた。昨日のうちに私は学校に連絡し、無事に病気が治ったことを先生に伝えた。電話越で先生が胸をなでおろしているのがわかった。この日も私が着席しているのを見ると、さりげなくではあるが、優しく微笑んで頷いてくれた。
 二学期が始まり、定期試験が終わるとクラスは文化祭の話題でもちきりになった。私はなんと、二年連続でお化け屋敷をやることになった。数日後の放課後、泉さんと一緒にお化けの衣装をぬっている時、ふと病院で出会ったおばあさんのことを思い出した。もしかして、私には何かの霊がついていたのではないだろうか。まさか、まだ憑いてたりして。
「どしたの」
手を止めていた私に泉さんがそう尋ねてきたので、私は慌てて首を振った。
「何でもないよ」
そう言いながら、頭の中ではあのおばあさんが言っていたことを何度も思い出していた。おばあさんは確かこう言っていた。“ほんとうにそっくりね”、“本当にお子さんが心配なのね”と。そっくりという事は、私の後ろにいたのはお祖母ちゃんやお爺ちゃんだったのだろうか。けれど、その次が気になった。もしもあの場にいたのが祖父母だとしたら、“お子さん”より“お孫さん”の方がしっくりくる。私は祖父母の孫ではあるが、子どもではないからだ。だとしたら、あの場にいたのは母か父だったのだろうか。でもどちらもまだ生きている。生霊というやつだろうか。
 私は頭の中で悶々とおばあさんの台詞を考えていたが、結局わからずじまいだった。夕食の席で、母と父にそのことを話すと、母がにこり微笑んだ。
「きいちゃんがそんな話信じるなんて珍しい」
「信じてるっていうか、ただずっと気になってて」
母は笑いながら、おかしいね、と父に言った。父は水を飲みながら、ああ、と言うだけだった。
「でも別にポルターガイストとか怪奇現象は起きたりしてないんでしょ?」