カードが全て配られると、私は久しぶりのババ抜きにどきどきしながら手札を確認した。十一人という数多さに圧倒されながら、同じ数字のカードを探した。しかし手札が少ないためか、あまり減らなかった。じゃんけんで湯河原から時計回りにひくことになり、湯河原は隣の片桐から一枚引いた。途端に湯河原の表情が曇る。まさか一枚目で見事に“それ”を引くとは思っていなかったのだろう。片桐も笑いをこらえるのに必死だったので、結局ジョーカーの行方は皆に知れ渡ることとなった。次に片桐が隣の橋本から一枚引き、橋本が私から一枚、私が岩井から一枚という風にゲームは順調に進んでいった。一番に抜けたのはハーフアップの女子生徒だった。彼女は隣の小柄な女子生徒から一枚引くと、小さく喜びの叫び声をあげた。
「やった!」
橋本が長いまつ毛をぱちぱちさせながら驚く。
「え、はや。ミキ早くない?」
次は南浜があがった。そこから二周したところで小柄の女子生徒があがり、半周で泉があがった。この時私の手札は二枚で、一枚はジョーカーだった。私からカードを引く橋本は眉根をひそめながら迷った。
「えー。どっち。どっちだ。こっちがジョーカーですか?」
突然質問された私は、思わず正直に頷いてしまい、そのまま首を横に振った。
「いや、どっちだよ」
橋本は笑いながらそう突っ込んだが、最後は勘を頼りに数字のカードを引いた。しかし数字が合わなかったらしく、ぶつぶつ文句を言いながら手札をシャッフルしていた。一方私は残り一枚の手札だった岩井からカードを引いた。岩井は、やった、と笑いながら相生の手札を覗きに行った。一方私は今引いたカードの数字が同じだったので、それを捨て、残り一枚となった。しかもそれがジョーカーだ。次に橋本がそれをひき、私は無事に上がることができた。残りは片桐、上野、湯河原、相生、橋本の三人だ。その次の周回で相生と湯河原があがり、片桐、上野、橋本の三人になった。先程からずっと手元にジョーカーが残っている橋本は、恨めしそうに私を見た。しかしその後無事に橋本も上がり、最後は片桐と上野の一騎打ちになった。
 片桐のゲーム好きは本当だったらしく、直感便りの上野相手に心理戦を始めた。ジョーカーを持っている上野に片桐が言う。
「こっちがジョーカー?」
上野はすました顔で頷いてみせた。
「そうだよ?」
片桐はにやにやしながら再び確認した。