本当にそんなこと思っているのだろうか。私は嫌じゃないけれど、きっとこの女子生徒の方が“いやいや”誘っているのだろう。そんなひねくれた自分に嫌気がさし、私は何度も頷いた。その子は、よかったと笑った。屈託のない笑顔に、私はついさっきまでの彼女の疑いをあっという間に忘れてしまった。なんだ。やっぱり、いいひとじゃないか、と。
 ある程度グループが決まり、人員に空きがあるところに入るつもりでいたので、私はこんなに早いタイミングで声をかけられたことに心底驚いていた。それと同時に、ただ椅子に座っている事しかできなかった自分に声をかけてくれた彼女に感謝しかなかった。ありがとう、そう伝えたくて、仕方がなかった。けれどどうしてか、この時にかぎって緊張した。そ
 れを隠すように私は俯きながらそう呟いた。周りが騒がしかったのもあり、彼女は私が言葉を発したことにすら気がついていないようだった。
「じゃあ私、黒板に名前書いてくるね。サツキは岩のイワに井戸のイでしょ。八百瀬さんは八百屋さんの八百に高瀬とかの瀬だよね?」
私が頷くと彼女は小走りに去っていった。人だかりの向こうで、背伸びをしながら名前を書く彼女の後姿が見えた。

相生コトネ
岩井サツキ
八百瀬桔梗

私が白いチョークで書かれた名前を見つめていると、谷川がもう一度振り向いた。やはり話すのが苦手なのだろう。顔を赤らめながら、谷川が言った。
「よかったすね」
私も今度はしっかりと頷いてみせた。それから数分後、再び泉が教壇に上がり、クラス全員の名前が黒板に書かれているかを確かめた。それからルーズリーフにあみだくじを書き、各グループの代表を前に呼んだ。
「じゃあ、男子はこっち、女子はこっちに名前書いて」
「なあなあ、くじに線足してもいい?」
「え?あ?いいよ。数本な?数本だけだかんな?」
「うぇーい。書き足しまくろうぜ」
「やめろよ、めんどくせえだろ。おいおいマジで多すぎるって!おいぃー」
容赦なく横線を書き足しまくる男子達から紙を奪い取ると、泉は目を細めながらなんとかあみだくじの線を辿った。着々と班が発表されていき、私は六班で五人のようだった。
「相生さんとこは、片桐のとこっすね」
片桐が誰かわからず、辺りを見渡す私に、谷川が小声で教えてくれた。
「あの後ろの眼鏡かけたやつですよ」