泉さんのその台詞と同時に、昼休みが終わるチャイムが響いた。これまで“友達になろう”と言ってくれた子はたくさんいた。けれど、私がそれを求めなかったからか、同じように私に“特別”を求めてくれた子はいなかった。だから、私にはそうやって誰かに求められるということが、どんなものなのか正直わからなかった。
「やば。次音楽室じゃん。ほら、八百瀬ちゃん、走るよ」
泉さんにそう言われて、私は我に返った。既に彼女は女子トイレを抜け出していた。
「ほら、はやく!」
「え。あ、うん」
私はそう答えて彼女の後を追った。
 それから泉さんはたまに私に話しかけてくるようになった。けれどそれは一日のうちの本の数回だけだ。彼女は一度も“友達になって”とか“一緒にいよう”等は言わなかった。一部の女子以外からは高い人気を持つ彼女は、いつもクラスの中心だった。その中に入りたいとも思わなかった私は、自らそちらへ歩き出すこともしなかった。
「あ、八百瀬ちゃん部活?頑張ってねー」
放課後、泉さんが友達数人の輪から顔を上げて手を振ってきた。私はにこりとすると片手をあげて頷いた。
「うん。ありがと」
再びきゃっきゃと楽し気に話始めた泉さんに背を向けて、私はそのまま部活に行った。
 私の高校生活は、こんな風にあっけなく過ぎていくんだ。そう思っていた。可もなく不可もなく過ぎていく。小学校の時と、中学校の時と、同じ。違うのは、自分に“仲の良い友達”がいないと自覚していることだけ。だから、そんな日常が打って変わったのが、自分でも信じられなかった。けれどそれも、今思い返すときっかけはずいぶん前からだったのだ。

「今日は自然教室の班決めするからなー」
ある日私が教室に戻ると、担任の先生がいつもより早く登場していた。そうだ、そろそろ学校行事の遠足があるのだ。遠足の響きで、クラスは一気にざわめいた。お調子者の上野と言う生徒が真っ先に手をあげた。
「先生!バナナはおやつにはいりますか!?」
先生は声をあげて笑いながら手をひらひらさせた。
「いいから早く自分の席につけ。お前その席じゃないだろう。ほら泉も戻りなさい」