──放課後。

栞と一緒に駅までの道のりを歩いていると、“ハイム”の前にちょっとした列ができているのが見えた。
栞が驚きの声を上げる。

「わ、すごい。土曜だともっと混んでるかもだね」
「開店直後とか狙って行こうか」
「うん、そうしよう。夕方とかに行って、残ってるのが少なかったら悲しいもんね」

お店のウェブサイトを見て営業開始時間を確認すると、午前11時からとなっている。

「土曜の10時40分くらいに駅集合にしようよ」
「りょうかーい!」

駅の方へ進路を変えながら、「なんかさー」と栞がため息混じりに口にした。

「行きたかったお店とか、よく遊んでたとことか、この数年で結構変わっちゃったよね。なくなったり別のお店になってたりで」
「うん……そうだね。中学のときにみんなでお揃い買ったお店も、この前近くを通ったときに見てみたら閉店って書かれて寂しかった」
「ええっ、あれだよね!? ブレスレット買ったとこ」
「そう」
「閉店しちゃったんだ……。はぁ。いつか行きたいな、また行きたいな、とか考えてるばっかりと駄目だね」
「ね。“いつか”も“また”もなくなっちゃう」

少ししんみりしながら駅へ向かっていると、前方から別の高校の男子4人がこちらへ歩いてくるのが見えた。
彼らのお目当ても“ハイム”だったのか、3人が行列を見て「うげ」という顔になる。

しかし、シルバーアッシュの派手な髪をした人だけは、なぜか驚いたように私をじっと見て、足を止めた。

(あ、あの髪……)

高校の最寄り駅が同じなので当然といえば当然なのだが、彼の目立つ髪色には見覚えがあった。
とはいえ、駅のホームとかで遠目に見たことがあるくらいで、まともに顔を合わせたことも話したこともない程度の、一方的な認識だ。

(いつき)?」
「どした?」

他の3人も、イツキと呼ばれた男子ほどではないが派手だ。明るめの髪色や、黒髪でもピアスをいくつかしていたりで、クラスでも馴染みのないタイプ。

「行こ、栞」
「うん」

ちょっと怖いので、早く通り過ぎようと歩調を速める。
俯いたまま、彼らとすれ違って──何事もなくほっとしていた直後、「行け!」
「応援してっから!」など、囁きになりきれていない声が聞こえてくる。

「わかったから、お前らどっか行ってろ!」

ここで初めて発せられた声は、会話の流れからしてイツキのものだろう。
「あの!」と声をかけられて、私は『まさかね』と思ってためらいつつ足を止めた。

「……なんですか……?」

緊張した面持ちに、こちらまで緊張してくる。
それと同時に嫌な予感もしてきて、居心地が悪い。

「…………」
「…………」

しばらく流れる沈黙。
逃げたいような気持ちで彼の表情を伺うと、思いの外真剣な目と視線がぶつかった。

「俺と、付き合ってくれませんか?」
「……!」