「……出ないと」

手を洗いながら、顔を上げる。
白いマスクをした、すっかりお馴染みとなった自分の顔が鏡に写っていた。

少し流したシースルーバング、セミロングの黒髪。
目尻がちょっと上がった切れ長寄りの目に合わせて、眉はストレートとエレガントの中間くらいで綺麗めになるようにしている。

高校生になってよく言われるようになったのは「大人っぽい」「美人」「綺麗」という言葉。
可愛いと言われることもあるけれど、それもどちらかと言うと、綺麗系のニュアンスで単なる褒め言葉として使われていることが多いように思う。

素顔の私は、別にそんなに美人じゃない。

目元はすっきりしているけれど、ちょっと丸顔だから、マスクを外すと雰囲気が変わってしまう。
鼻はそんなに高くないし、唇もややぽてっとしているから、綺麗系なのは目元だけ。

そうわかっているので、せめて高校ではこのまま、素顔を晒すことなく卒業を迎えたい。

制限されていることはまだまだ多いし、このままだと高校の修学旅行まで小規模なものになってしまうのではという不安はあるけれど、日常生活にほとんど不便は感じていない。

それどころか……私は、現状に安心感を抱いていて、元の生活に戻る日が来ることを恐れている。

もちろん、流行り病なんて、早く収束した方がいい。
ただ、マスクをしなくていい世界に戻って、マスクなしの素顔で人と向き合わざるをえない日が来ることが、怖くて仕方ないのだ。