アレというのは、最初の告白のことだろう。


──あの!
──……なんですか……?
──俺と、付き合ってくれませんか?
──……罰ゲーム……?
──いや、違う! 本気で!!


あの会話を思い出すと、ちょっとおかしくなるのと同時に、申し訳なさも感じてしまう。

「罰ゲーム扱いしてごめんね」
「いや、あの流れだとそう思うのも無理ない」
2人でくすくす笑い合ったあと、ふと、あの時の答え合わせができたことに気づいた。
「私のこと“優しい”って言ってたの、そういうことだったんだね」
「優しい?」
「ほら、なんで付き合いたいのか聞いたときの」
「ああ、あれな」


──……なんで、付き合いたいと思うんですか?
──キモかったらほんとごめんなんだけど、前から電車でときどき見かけたりして気になってた。優しい子なんだなとか思って……。


「告白して、あんなリアクションされたの、全校で俺くらいだと思う」
「それは……本当にごめん……!」
「……で、今回の答えは?」

軽い調子で、でもまっすぐに尋ねられて、私は大きく頷いた。

「私も、付き合いたい」
「っしゃ!」

小さくガッツポーズをする高瀬くん。
と、タイミングがいいのか悪いのか、店員さんがやってきて、頼んでいたメニューがテーブルに置かれる。


……正直なところ、人前でマスクを取るのはまだ怖い。
だけど、高瀬くんとは、素顔で向き合いたいと思えた。


私たちはどちらからともなくマスクを外し、静かに向かい合う。

高瀬くんは、目元は鋭めな印象だけど、顔全体で見ると案外優しそうな感じだった。口元が、柔らかく笑みの形を描いているからだろうか。

想像していたそっくりそのままの顔というわけではないけれど、「ああ、これが高瀬くんなんだ」というしみじみとした実感があった。

「福原さん。結仁。結仁ちゃん」

すっかり聞き馴染んだ高瀬くんの声が、初めて見る口から紡ぎ出されていて、なんだか不思議な感じだ。

「結仁がいいかな」

緊張しつつ言ってみると、高瀬くんは優しく笑う。

「じゃあ、俺は樹で。改めてよろしく、結仁」
「こちらこそ、樹くん」
「くん付けるんかい」
「いきなり呼び捨てはちょっと慣れなくて……!」


笑い合いながら、私たちは、新たな関係への一歩を踏み出した。