「なんとなく……栞が言いたいこととは違うかもしれないけど、わかったかも。アモーダル補完?で勝手にイメージしてた顔が好きなら、マスクを外したときのがっかりで、一瞬で恋が終わるかもしれない。だけど、その人自身に好意を持ってたら、多少のがっかりとかイメージ違いはあっても、好きなままでいられる」
「そう! そういうこと! だからさ、結仁と高瀬くんなら大丈夫なんじゃないかなって」

これまで重ねてきた短い時間の中で、私は高瀬くんに、どれくらいの想いを抱けているだろう。高瀬くんから、どれくらい想ってもらえているだろう。

気持ちは見えないから自分のものですらはっきりとはわからないけれど、今後関係が深くなっていくなら、いずれお互いの顔を見せる日がくることは避けられない。

だったら、無駄に引き伸ばすより、覚悟を決めた方が今後のためにもいい気がした。

「あとね、ちょっと話変わるけど……顔って、顔の造形と同じくらいかそれ以上に、表情が大事だと思うんだよね。ねぇ、小学生のとき、私が歯科矯正してたの覚えてる?」
「うん、5年生か6年生くらいのときにしてたよね」
「あのころ私、笑ったり喋ったりしたら矯正器具が見えるのが嫌で、いつの間にか、なるべく笑わずに、口も開けずにしゃべるようになってたの」
「そうだったっけ……」

栞は、割とハキハキ喋る印象がある。
そんなに昔ではないのに、当時のことはいまいち思い出せなかった。

「そうだったの。腹話術みたいに、喋ってるのにほとんど口動いてなくて、仏頂面。可愛げがないでしょ?」

イメージしてみると、小学生でそれはたしかに可愛げがなく感じられるかもしれない。

「自分が喋ってるとこがたまたま映ってた動画を見て、ショックで。矯正が終わったあと、鏡見ながら、しっかり口を動かしてハキハキ喋ったり、綺麗に笑う練習とかしたわけ」

かなり仲がいい友達なのに、栞がそんなことをしていたのは初耳で、私は目を見開いた。

「知らなかった……。ときどき、痛くてごはん食べられないってしんどそうだったことは覚えてるけど」
「あ〜、そんなときもあったなぁ……。それでね、練習して喋り方と表情が変わったら、だんだん周りの人の反応も変わっていったの。友達が増えたり、ちょっとしたまとめ役を任されるようになったりとか……。小さいことでも、印象って案外大きく変わったりするんだなって思った。おまけに、印象は結構変わっても、少しずつの変化だとみんな徐々に慣れていくから、違和感も持たれない! 結仁も、今私が言うまであんまり意識してなかったみたいだし」
「うん。私にとっての栞は、今の栞の印象が一番強いから……そうだったんだって、かなりびっくりしてる」
「ね? 努力で変えられる部分もあるし、変わってもみんな慣れていくんだよ。だから、結仁がマスクつけてる自分と素顔の自分の間にギャップがあってしんどいなら、なりたい自分に少しずつ近づけていくってのもありだと思う……って言いたかったの」
「栞……どうしたの。今日、なんかすごい深いこと言ってる」
「でしょ〜?」

2人で笑って、すっきりした気分で夏が近づく空を見上げる。

「ありがとね、栞。おかげで、ちゃんと高瀬くんと……それに、自分とも向き合えそう」
「どういたしまして」