「これは、従兄弟(いとこ)が美容師になりたてで、ダブルカラーとかの練習台になってるだけ。俺も明るめの髪色割と好きだし、英朋は校則ゆるいからさ」
「そうだったんだ。似合ってるし、星南は髪染め基本禁止だから羨ましいな」
「福原さんも派手にしたいの?」
「ブリーチはちょっと怖いけど、髪は大学生になったら染めてみたい」
「俺たちが大学生になるころは従兄弟も一人前になってそうだし、そんときは紹介する」
「本当? 楽しみ」

本を買ったあと、雑貨コーナーを見て、ガラスのアクセサリートレーを買ったりする。
夏が近づき、日が落ちるのはかなり遅くなっているけれど、いつの間にか外が暗くなっていて、私たちは慌てて商業ビルを出た。

「今日はありがとな」
「ううん、こっちこそ。買い物付き合ってくれてありがとう」
「なら俺は……夢のこと笑わないでくれてありがとう」
「そんなの当たり前のことでしょ」
「それでも、嬉しかったから」

街灯や店々の明かりに照らされ、夜でも明るい街を、2人でゆっくりと歩く。
駅が近づくなか、高瀬くんがふと足を止めた。

「……今度さ。ちゃんと出かけたいんだけど、どう?」
「出かけるって……」
「デート」

決して大きくはない声だったけれど、その言葉は私の耳に大きく響いて聞こえた。


──高瀬くんと、デート。


「土曜に、映画とか買い物とか」

気持ちがふわふわと浮かびそうになり──しかし、続いた言葉で、現実に引き戻される。

「時間なかったら、ちょっと飯食うくらいでもいいし」
「…………」

沈黙していると、高瀬くんが「どうした?」と尋ねてくる。
動揺を隠しながら、なんとか素顔を晒さずに済むよう考えを巡らせた。