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それから、私たちはメッセージのやりとりをするようになった。
高瀬くんは、『朝の電車とかで話せるといいな』と言っていたけれど、彼が通うのは、進学校であり自由な校風で有名な英朋高校。
朝は私より早めで、帰りも遅めらしい。
でも、水曜日と金曜日は授業が1コマ少なくて、星南と同じくらいの時間に終わるから、週にその2日は途中駅まで一緒に帰ろうということになった。
「修学旅行、来年どうなるんだろうな」
電車に揺られながら、高瀬くんがため息混じりにぼやくように言う。
「来年は……どうだろうね。私たちが行く再来年とかだと、さすがに旅行もある程度解禁されてるのかな」
「あ、そっか。福原さんは3年なんだ、修学旅行。英朋は学科によるけど2年なんだよ」
「えっ、そうなんだ!」
「3年は受験で勉強漬けだから」
「徹底してるね」
「な。でも、今年の強歩会なくなったのは正直ラッキー」
「星南でも、持久走大会がなくなったのはみんな喜んでる」
「あはは、だよな」
高校が違うので、学校行事などにもいろいろ違いがあるようだった。
他の高校についてこうして知るのは、なかなか面白い。
そんなことをぼんやり考えていると、電車がガタンと大きく揺れた。
「わっ!」
「……っと」
バランスを崩しかけて不安定に揺れた私を、とっさに高瀬くんが背中に手を添えて支えてくれる。
「ありがと……」
近づいた距離にドキッとしてしまい、お礼の言葉は蚊が鳴くみたいな小さい声になってしまった。
「どういたしまして。……っていうか、福原さんがこっちの方がいいな。ごめん、気づかなくて」
高瀬くんが立ち位置を交代してくれて、私は壁にもたれやすい位置に移動する。
「……優しいね」
最初こそ唐突な声かけに対して警戒してしまっていたけれど、高瀬くんはしっかりしていて、周囲によく目を配っているように思う。
話しやすいし、短い時間の中でも、ちゃんとこちらのことを考えてくれているんだなと感じることが多い。
おもわず独り言のようにこぼすと、高瀬くんは窓の外へ視線を向けながら、小さく返した。
「そりゃあ、まあ。相手が福原さんだから」
驚いて、目を瞬きながら高瀬くんの方を見る。
耳の先がじんわりと赤くなっていて、私は彼に気づかれないよう、マスクの下でちょっとだけ照れ笑いをした。