✼第3章 見風気にする追い風


「文化祭でする出し物を決めようと思います!」


委員長が大きな声で叫ぶ。
すると二年目の文化祭といえど教室はざわめくに決まっている。
皆口々に「何やるんだろうねー」などと話している。
かくいう私も、周りの子たちと浮ついた様子で喋っている一人なのだが、皆興奮しているからか声は高く、喋るスピードも速く、まくし立てるように喋っている。そのため私が入る隙間はない。


「2年生は出店関係をやるらしいから、どういう内容にするかを決めたいと思ってます」


副委員長が「文化祭 出店 案」と書き込み箇条書きの点を打つ。
すると一人が手を上げる。


「はい!メイド喫茶!!!」

「却下」


が、すぐに一刀両断されてしまった。
私的には演劇部が抜けても回るようなものがいいから一応ありではあるが、食べ物を提供するというより、ゲーム関係の出店らしい。先生からも「それは違うな」と言われていた。


「うーん…ほかなにかないかな?みんなが遊べるような出店」


委員長が困ったように見回す。皆否定はするものの意見はないらしい。
まぁそんなものだろう。


「夏祭りみたいな感じで射的とかヨーヨーとかあったら楽しそうだな…」


一人でぽつりと呟く。周りの声にかき消されて誰もそれは聞いていなかった。
と、おもっていたのだが。


「はい!夏祭りの出店みたいな感じで教室に夏祭り詰め込みました!みたいな感じにするとか!」


元気な声で音緒が言う。
すると皆口々に「それいいね!」と言っている。
委員長が考えた末、「他に意見も出なさそうだから」とうちのクラスの出し物は夏祭りに決まった。
もちろん思っていた感じの出し物になって嬉しい。嬉しいけど。


「キーンコーンカーンコーン」


チャイムの音が鳴り、私はまっさきに音緒の方へ行く。
なんでわかったんだろう。あんなに席も離れてるから聞こえるわけ無いし。
音緒がこちらに気づくとぱっと笑顔になって近寄ってくる。


「夏孤よかったね!やりたいって言った感じになって!」

「うん、それは嬉しいんだけど、なんで分かったの?」


本当に分からない。もしかしたら音緒もしたいと思ってたとか?いやでも、私に良かったねって言ってるし…
頭の中でぐるぐると思考が動く。


「だって、夏孤が言ってたし」


あれ?私言ったかな…?確かに決めるときにぼそっと言ったけど。


「一年生のときに、ニ年生になったら夏祭りみたいな感じでたくさん屋台詰め込みたいな〜、って。だから、言ったんだけど、もしかしてお節介だった?流石に一年経てば変わってるわ!ってなっちゃった?」


「いや…!全然お節介じゃないし、なってないから!!」


お節介なわけがない。


  *  *  *  *  *


一年生の頃、文化祭は音緒と二人で回った。
一年生の出し物は、誰が見に来るのかもわからないようなグループで作ったレポート発表。十分ちょっとで私達の出番は終わった。
だから、後はずっと先輩たちの出し物を回っていた。
文化祭公演の時間に体育館に行き、公演をした。といっても、私は一年生で演技力もないの二の舞いで、出番は数えるほどしかなかった。
しかし、心のどこかで緊張していた公演が終わってからは心が軽く、純粋に楽しむことができた。
二年生の出し物を見たときは、「来年は自分たちがこれをやるのか」ではなく「来年は自分たちがこれをできるんだ」という希望に満ち溢れていた。
だからか気分の上がっていた私は音緒に夢を聞かせる子供のように言ったのだろう。


「すごい!来年は私達がこれできるんだね…!」

「ね!めちゃくちゃ楽しそう」

「私、来年するなら、この教室にヨーヨー釣りとか、千本引きとか!宝探しとか、射的みたいな夏祭りにある出店をこの教室に作りたいな…!ね?めちゃくちゃ楽しそうじゃない?」

「え!なにそれめっちゃいいじゃん!」


  *  *  *  *  *


あのときはクラス替えのことをすっかり忘れていて、音緒と一緒にする気満々だった。
最終的に今年も同じクラスになれたから今こうなっているわけだけれど、もし音緒と同じクラスにならなかったらと思うと、背中がぶるりと震える。


「そっか。なら良かった」


音緒が安心したように言う。
もちろん、やりたかったことができたのは嬉しいけど、私は音緒が一緒にいてくれるだけで嬉しいよ。
そんなセリフ恥ずかしくて言えないけどね。
クラスのことももちろん大事だけど、公演のことを第一に考えないと。

 *

「じゃあ今日は奏音の方をやってくねー!燃ゆるの人たちは台本合わせたりしててー!!」


日菜多先輩がそう言うと皆ゆったりだけれど動き始める。
「行こっ!」と言って音緒が手を引いてくれる。
音緒は燃ゆるの主人公の友達役をやっていて、奏音の方の主人公の友達役でもある。でも出るのは燃ゆるだけ。
竹馬の友みたいな関係らしい。
燃ゆるの主人公の恋した相手は一年生がする。正直同級生とやるよりかはまし、なのかな。
でも喋りやすさで言うと同学年のほうがいいのかもしれない。
同学年とやって木々飛くんが少しだけでも嫉妬とかしてくれないかな、なんて少し期待してしまっている。


「大江先輩、僕、主役なんかして大丈夫なんでしょうか…演技とはいえ、こうゆう告白系のやつ、俺で大丈夫なんですか…?」


後輩が伺うように聞いてくる。
青春だなぁ…
正直、私は演技は演技と見ているから特になにも気にしないのだけれど新しくできた後輩可愛かったから少し意地悪してしまいたくなったが、流石に可哀だし、結構真剣に考えてたっぽいので茶化すのはやめておくことにした。


「そんなの全然大丈夫だよ。それがあってこそ演劇部だし、見に来てくれる人もそうゆうのが好きなんじゃないかな」

「ほんとですか、じゃあ僕もそうやって考えます…!先輩のこと好きな人には申し訳ないんですけど」


ふわりと笑う。
音緒に言われた話だけど、私も後輩くんも全体的に雰囲気がふわふわしているから「燃ゆる」よりも「萌夢る」みたいなイメージだよね、とのことだった。
確かに私もそんなに天真爛漫な感じではないし、後輩もどちらかというと子犬みたいな感じだ。


「別になんにも気にしなくていいよ、悲しいことながら私のことを好きでいてくれる人とかいないからね…はは…」


両片思いとかしてみたいよ。あんな漫画の中独特の世界観というか。
世の中の付き合っている人たちって本当にすごい。何億人もいる世界からお互いが好きになる確率、考えただけで吐き気がしそうだ。


「あっいや…!そんなつもりじゃないんですよ…!すいません…!」

「あははっいいのいいの」


「夏孤ー!こっちの教室使っていいってー!」と音緒が叫ぶ。
それに返事をして音緒の元まで駆け寄る。その間際。


「じゃあ、お互いがんばろっか」


後輩の顔が少し明るくなった気がした。
雰囲気がいいなぁうちの演劇部は。


「ほんっと、あの後輩くんずるい…」


部室の入口の方から聞こえた声は私の耳には届いていなかった。