それから半日後。
ぼくたちは大学の撮影スタジオにいた。
今日から学校が始まり、同じ授業をとっていたからだ。
他の生徒が機材を触る時間、ぼくたちは床に腰掛けぼんやりと過ごす。すると太ももがこそばゆい。見れば、隣に座る彼がシャーペンでぼくの太ももをつついていた。
いつも通りのいたずらに、ぼくはあのさ、声を抑えるかわりに顔を近づける。
「まだお前に告白して十二時間も経ってないんだけど。もうちょっと気使ってくれる?」
すると彼はケラケラと笑い、それにつられてぼくも笑った。
一年後。
ぼくはあいつとの出会い、知り合いになって、友達になって、親友になって、恋人になれなかった五年間の月日を一冊の本にして自費出版した。
それと同時に大学内でカミングアウトをした。
勇気があったわけではない。どうせ卒業まで残りわずかだし、後数回しか会わないのだから、なにを言われても気にならないと思ったし、知り合いのよしみで買ってくれと思った。自費出版は想像以上にお金がかかった。
発売当日、偶然陸にいたなおくんにお好み焼きをご馳走になった。
甘辛いソースがかかったお好み焼きや、海鮮の鉄板焼きを食べ、ぼくはなんとなくツイッターを見ていると、俳優さんの自撮りツイートが流れてきた。
元々は俳優さんが学生時代に主演を務めた映画のプロデューサーが制作部時代の直属の先輩だったり、友人の友人が監督を務めたMVに出演していたりと直接の関わりはないが、よく目にする俳優さんだった。
可愛らしい、男性の俳優さん。今日も相変わらず自撮りが愛おしく、尊い。
ぼくはそこで気がついた。
ぼくのアカウントは大学の同級生たちとも相互フォローであり、今までは他人の目を気にして、フォローはおろか、いいねもリツイートもできなかった。
けれど、本を出版した今、すでに隠すことはなく、どう思われたって関係ない。
ぼくは俳優さんのアカウントをフォローし、初めていいねとリツイートを押した。空っぽのハートマークが瞬時に赤く染まる。その赤を見て、ぼくはまた一つ、重しが外れ身体が軽くなった気がした。
なおくんに興奮気味にこのことをいうと、あまり理解はしていなかったが「よかったな」と言ってくれた。
先輩たちと出会えたこと。
本を出版したこと。
そして、一度告白した彼と今も友達であること。
それらが積み重なり、ぼくは好きな俳優さんをフォローすることができた。
こんな小さな喜びが、ぼくを救うのだと、ようやく気がついた。
ぼくはこれからも長い年月を経て自らにかけてきた呪いを、自らの手で、あるいは人に助けられながら少しずつ解いていくのだろう。
ぼくがぼくらしく生きるために。
ゆっくりと、それでいて心地よく。
そして今日も、原付は走る。
ぼくたちは大学の撮影スタジオにいた。
今日から学校が始まり、同じ授業をとっていたからだ。
他の生徒が機材を触る時間、ぼくたちは床に腰掛けぼんやりと過ごす。すると太ももがこそばゆい。見れば、隣に座る彼がシャーペンでぼくの太ももをつついていた。
いつも通りのいたずらに、ぼくはあのさ、声を抑えるかわりに顔を近づける。
「まだお前に告白して十二時間も経ってないんだけど。もうちょっと気使ってくれる?」
すると彼はケラケラと笑い、それにつられてぼくも笑った。
一年後。
ぼくはあいつとの出会い、知り合いになって、友達になって、親友になって、恋人になれなかった五年間の月日を一冊の本にして自費出版した。
それと同時に大学内でカミングアウトをした。
勇気があったわけではない。どうせ卒業まで残りわずかだし、後数回しか会わないのだから、なにを言われても気にならないと思ったし、知り合いのよしみで買ってくれと思った。自費出版は想像以上にお金がかかった。
発売当日、偶然陸にいたなおくんにお好み焼きをご馳走になった。
甘辛いソースがかかったお好み焼きや、海鮮の鉄板焼きを食べ、ぼくはなんとなくツイッターを見ていると、俳優さんの自撮りツイートが流れてきた。
元々は俳優さんが学生時代に主演を務めた映画のプロデューサーが制作部時代の直属の先輩だったり、友人の友人が監督を務めたMVに出演していたりと直接の関わりはないが、よく目にする俳優さんだった。
可愛らしい、男性の俳優さん。今日も相変わらず自撮りが愛おしく、尊い。
ぼくはそこで気がついた。
ぼくのアカウントは大学の同級生たちとも相互フォローであり、今までは他人の目を気にして、フォローはおろか、いいねもリツイートもできなかった。
けれど、本を出版した今、すでに隠すことはなく、どう思われたって関係ない。
ぼくは俳優さんのアカウントをフォローし、初めていいねとリツイートを押した。空っぽのハートマークが瞬時に赤く染まる。その赤を見て、ぼくはまた一つ、重しが外れ身体が軽くなった気がした。
なおくんに興奮気味にこのことをいうと、あまり理解はしていなかったが「よかったな」と言ってくれた。
先輩たちと出会えたこと。
本を出版したこと。
そして、一度告白した彼と今も友達であること。
それらが積み重なり、ぼくは好きな俳優さんをフォローすることができた。
こんな小さな喜びが、ぼくを救うのだと、ようやく気がついた。
ぼくはこれからも長い年月を経て自らにかけてきた呪いを、自らの手で、あるいは人に助けられながら少しずつ解いていくのだろう。
ぼくがぼくらしく生きるために。
ゆっくりと、それでいて心地よく。
そして今日も、原付は走る。