「……終わっちゃうねぇ……。夏」



花火に乗せて呟いた彼女の言葉が、彼に届いたのかはわからない。


しかし。


彼の瞳には、しっかりと夜空の光景が焼き付いている。


その瞳は、何かを決意したかのような力強いもので。


ぎゅ、と。弱々しく、けれど力強く。拳を握る。



「……どうかした?」



爆音が轟く中、彼女は彼の震える拳を見て、そっと自分の手を重ねた。


しかし何も答えずに夜空を真っ直ぐ見つめる彼に、彼女は何も言わずに寄り添った。


触れた肩が、熱くて。


流れるように繋がれた手が、柔らかくて。


心臓が、夜空に咲く打ち上げ花火よりも激しく鳴り響く。


このまま時間が止まってくれればいいのに。


そう思ったのは、どちらだったのだろうか。



「……大丈夫」


「……」


「大丈夫だよ」



彼女の一言が、すっと胸に染み込んでいく。



「……だい、じょうぶ」



彼女の言葉を噛み締めるように繰り返した彼は、反対の手で、胸に下がるネックレスを強く掴む。そしてそっと静かに微笑んだ。



「うん。大丈夫」



彼女もまた、真っ直ぐ夜空を見上げながら微笑んだ。


二人の目がそれぞれ潤んでいたことには、お互いが気付かないふりをした。