三日後、誰もいない夜の校舎で私たちは二人で携帯ラジオを聴いた。この大学は随分とセキュリティが緩いようだ。自分のお便りが読まれるかどうかドキドキワクワクしながら聴く体験は初めてだった。残念ながら読まれることはなかったが、煌めくほどに充実した時間だった。
「今日の水彩妃さん、いきいきしてて最高っす」
放送が終わった後、慧佑は親指を立てて笑う。
「あんなにころころ表情変わる水彩妃さん初めて見ましたもん。彼氏さんがDJに嫉妬する気持ちちょっと分かる気がしたかも」
「君ほどじゃないよ」
慧佑は歯を見せたり、舌を出したりと目まぐるしく表情が変わる。指摘すると、彼はまた大げさに反応した。
「寒くないんすか」
暖房のきいた教室から無人の廊下に出ると、コートのポケットに手をつっこんだ慧佑が、昼に会った時の第一声と同じ質問をする。十一月に夏物の服を着ていれば当然の心配かもしれない。
「平気よ」
外は雨が降っていた。先ほどまで気にならなかったのが不思議なくらいの雨音だ。私は傘を持っていなかったが、天気予報を見ていた慧佑は傘を持っている。慧佑は強引に私を傘に入れた。
「少し、ベンチで話さない?」
私から誘うのは初めてだった。
「俺は嬉しいですけど、風邪ひかないでくださいよ」
雨に濡れたベンチの冷たさは一分も座っていれば慣れた。今日のラジオの感想をつらつらと語ると、慧佑も面白かったポイントを興奮しながら話していた。
「あー、でもせっかくだから私のお便り読んでほしかったなー」
「まだ、明日の放送で読まれるかもしれないっしょ?諦めるのは早いっすよ。明日水彩妃さん誕生日だし、絶対いいことありますって!」
慧佑が無邪気に身振り手振りを交えて言う。
「ほら、明日もあるから風邪ひく前に帰りましょうよ。あ、そうだ。暖かい居酒屋でメシ食いません?できれば誕生日の瞬間、一緒に迎えられたら嬉しいんですけど」
私が何も答えないでいると、慧佑は気まずそうに続けた。
「すいません。調子乗りました。でも、明日も一緒にラジオ聴いてくれますよね?」
「無理、ごめんね」
慧佑の顔が途端に引きつった。はいと言いたかった。明日、お便りが読まれるか知りたかった。でも、それは叶わない。
「だって私、今日で死ぬもの」
「今日の水彩妃さん、いきいきしてて最高っす」
放送が終わった後、慧佑は親指を立てて笑う。
「あんなにころころ表情変わる水彩妃さん初めて見ましたもん。彼氏さんがDJに嫉妬する気持ちちょっと分かる気がしたかも」
「君ほどじゃないよ」
慧佑は歯を見せたり、舌を出したりと目まぐるしく表情が変わる。指摘すると、彼はまた大げさに反応した。
「寒くないんすか」
暖房のきいた教室から無人の廊下に出ると、コートのポケットに手をつっこんだ慧佑が、昼に会った時の第一声と同じ質問をする。十一月に夏物の服を着ていれば当然の心配かもしれない。
「平気よ」
外は雨が降っていた。先ほどまで気にならなかったのが不思議なくらいの雨音だ。私は傘を持っていなかったが、天気予報を見ていた慧佑は傘を持っている。慧佑は強引に私を傘に入れた。
「少し、ベンチで話さない?」
私から誘うのは初めてだった。
「俺は嬉しいですけど、風邪ひかないでくださいよ」
雨に濡れたベンチの冷たさは一分も座っていれば慣れた。今日のラジオの感想をつらつらと語ると、慧佑も面白かったポイントを興奮しながら話していた。
「あー、でもせっかくだから私のお便り読んでほしかったなー」
「まだ、明日の放送で読まれるかもしれないっしょ?諦めるのは早いっすよ。明日水彩妃さん誕生日だし、絶対いいことありますって!」
慧佑が無邪気に身振り手振りを交えて言う。
「ほら、明日もあるから風邪ひく前に帰りましょうよ。あ、そうだ。暖かい居酒屋でメシ食いません?できれば誕生日の瞬間、一緒に迎えられたら嬉しいんですけど」
私が何も答えないでいると、慧佑は気まずそうに続けた。
「すいません。調子乗りました。でも、明日も一緒にラジオ聴いてくれますよね?」
「無理、ごめんね」
慧佑の顔が途端に引きつった。はいと言いたかった。明日、お便りが読まれるか知りたかった。でも、それは叶わない。
「だって私、今日で死ぬもの」



