葉書を買うために、近くの文房具店に行った。季節の花や淡い色の鳥の図柄のうち、どれを選ぶか迷った。
「ゆっくり考えちゃってください。時間はいくらでもあるんですから」
自分で何かを選ぶなんてことは物心ついてからなかった気がする。
たくさんの葉書を一枚一枚吟味した。文房具店はまるでテーマパークのようだった。フルーツや星座が描かれたものにも心惹かれたが、私はやっぱり幾何学模様が好きだ。万華鏡のような模様の葉書三枚を見比べる。紫、緑、水色。迷って、ちらりと慧佑の方を見た。悠紫以外の人に意見を求めるつもりはないけれど、待たせすぎて退屈ではないかと気になった。しかし、慧佑はにこにこと私を見守っている。
「これにした」
散々悩んだ末、水色の絵葉書を選んだ。
「さすがみさきさん!センスいいっすね!じゃあ、これレジに持っていきます」
慧佑は財布を片手に笑う。
「そんな、悪いよ」
「いいんです。俺が勝手に買ったってことで。天国の彼氏さんには俺が代わりに殴られます」
悠紫は暴力的な人ではないが、善意は素直に受け取ることにした。禁忌を犯す言い訳をもらえるのはとてもありがたかった。
大学の空き教室で、ルーズリーフに何度もお便りの内容を下書きする。一字一句こだわりたくて、完成した文章を声に出して読んではまた書き直した。メッセージを考えるのは本当に楽しくて、スリープモードの慧佑のスマホに映る小さな私ですらも、口角が上がっているのが一目で分かるほどだった。
手が震えないように深呼吸してから、下書きを一文字ずつ丁寧に葉書に清書する。ようやく宛名を書き終えた時、私は生まれて初めて達成感というものを得た気がした。
切手を舐めると、どこか甘美な味がした。その仕草をずっと慧佑に見つめられているのは気恥ずかしい。
「あんまり見ないでよ」
「嫌です」
ポストまでの道は、ただの通学路のはずなのに色がくっきりとしていた。道中の飲食店の匂いも心地よかった。
塗装の剥げたポストが、とても愛おしい存在に思えた。思わず口元がゆるむ。命を噛みしめるような気持ちで、葉書をポストに投函した。葉書がポストに吸い込まれると、どこか遠くで、ガラスが割れる音が聞こえた気がした。
「採用されますように」
神社にお参りをするように、二回手を叩いて合掌した。目を開けると、隣で慧佑も同じように手を合わせてくれていた。目が合った慧佑に笑いかける。すると慧佑はみるみるうちに赤面していく。
「やっべー。水彩妃さん可愛すぎる……じゃなくて、放送日いつっすか?」
慧佑が挙動不審に目をそらしながら質問する。
「今日送ったら、三日後か四日後かな」
「了解っす。予定空けとくんで、一緒に聴きましょう」
四日後は私の誕生日で、悠紫の四十九日でもある。どうか、三日後に読まれてほしいと心の中でもう一度神様にお願いをした。その晩、普段使わない筋肉を使ったせいか頬と目元が筋肉痛になった。
「ゆっくり考えちゃってください。時間はいくらでもあるんですから」
自分で何かを選ぶなんてことは物心ついてからなかった気がする。
たくさんの葉書を一枚一枚吟味した。文房具店はまるでテーマパークのようだった。フルーツや星座が描かれたものにも心惹かれたが、私はやっぱり幾何学模様が好きだ。万華鏡のような模様の葉書三枚を見比べる。紫、緑、水色。迷って、ちらりと慧佑の方を見た。悠紫以外の人に意見を求めるつもりはないけれど、待たせすぎて退屈ではないかと気になった。しかし、慧佑はにこにこと私を見守っている。
「これにした」
散々悩んだ末、水色の絵葉書を選んだ。
「さすがみさきさん!センスいいっすね!じゃあ、これレジに持っていきます」
慧佑は財布を片手に笑う。
「そんな、悪いよ」
「いいんです。俺が勝手に買ったってことで。天国の彼氏さんには俺が代わりに殴られます」
悠紫は暴力的な人ではないが、善意は素直に受け取ることにした。禁忌を犯す言い訳をもらえるのはとてもありがたかった。
大学の空き教室で、ルーズリーフに何度もお便りの内容を下書きする。一字一句こだわりたくて、完成した文章を声に出して読んではまた書き直した。メッセージを考えるのは本当に楽しくて、スリープモードの慧佑のスマホに映る小さな私ですらも、口角が上がっているのが一目で分かるほどだった。
手が震えないように深呼吸してから、下書きを一文字ずつ丁寧に葉書に清書する。ようやく宛名を書き終えた時、私は生まれて初めて達成感というものを得た気がした。
切手を舐めると、どこか甘美な味がした。その仕草をずっと慧佑に見つめられているのは気恥ずかしい。
「あんまり見ないでよ」
「嫌です」
ポストまでの道は、ただの通学路のはずなのに色がくっきりとしていた。道中の飲食店の匂いも心地よかった。
塗装の剥げたポストが、とても愛おしい存在に思えた。思わず口元がゆるむ。命を噛みしめるような気持ちで、葉書をポストに投函した。葉書がポストに吸い込まれると、どこか遠くで、ガラスが割れる音が聞こえた気がした。
「採用されますように」
神社にお参りをするように、二回手を叩いて合掌した。目を開けると、隣で慧佑も同じように手を合わせてくれていた。目が合った慧佑に笑いかける。すると慧佑はみるみるうちに赤面していく。
「やっべー。水彩妃さん可愛すぎる……じゃなくて、放送日いつっすか?」
慧佑が挙動不審に目をそらしながら質問する。
「今日送ったら、三日後か四日後かな」
「了解っす。予定空けとくんで、一緒に聴きましょう」
四日後は私の誕生日で、悠紫の四十九日でもある。どうか、三日後に読まれてほしいと心の中でもう一度神様にお願いをした。その晩、普段使わない筋肉を使ったせいか頬と目元が筋肉痛になった。



