週明け月曜二限、最後列で心理学の講義を受けていると遅刻してきた慧佑が隣に座った。

「隣、いいっすか?」

 私が返事をする前にもう座っている。

 講義の内容はプラセボ効果とノセボ効果。実際に切られたわけではないのに、出血多量を起こしたと思い込んで死んだ囚人の話だった。履修登録は全部悠紫に合わせて決めたので、つまらない講義も多いが、この講義は好きだった。

「ノート、めっちゃ綺麗っすね」

 慧佑は無邪気に笑った。

「普通だと思うけど」
「いや、めっちゃ綺麗ですって!ザ・頭いい人のノートって感じ!その様子だと今日は体調いいみたいっすね!水彩妃さんが元気になってよかったっす!」
「ああ、それはもう大丈夫。先週はありがとう。お金、返すね」

 ちゃっかり呼び方が変わっている。先週返しそびれた買い出し代と水代を返そうとしたら制止された。

「女の子からお金もらえないっす。お礼ってことだったら、代わりに勉強教えてくれません?」

 ノートが丁寧だからか、私が去年新入生代表挨拶をしたことを知っているからかは分からないが、引き受けることにした。この世界から気を紛らわせたかった。
 しかし、恩人を無碍にできないという大義名分があっても、罪悪感は消せなかった。