「知ってる?二十歳まで紫の鏡って言葉を覚えてたら死んじゃうんだって」

 悠紫がプレゼントしてくれた万華鏡の本当の意味。

「ねえ、水彩妃。紫の鏡って言葉を二十歳まで覚えてると死ねるんだって。一人で死ぬのは怖いんだ。でも、自殺したら二人で地獄に行くことになるから心中はしたくないだろ?俺は水彩妃の誕生日まで生きていられないけど、『紫の鏡』を覚えてればすぐにまた天国で会えるからね」

 悠紫の最後の言葉は「紫の鏡」だった。二十歳までどころか一生忘れることはできない私への呪い。
呪殺が法で許されるか許されないかなんて、どうでもいい。それが罪であるか決めるのは神であり人ではない。人は死ぬと思い込めば死ぬ。事実としてこの一か月、呪いは私の体を着実に蝕み続けている。私は自分の意思で死ぬ。私を連れて行こうとした悠紫も、その手を取る道を選んだ私も地獄行きだ。

 明日は悠紫が三途の川を渡る日。私を連れていくために命日を選んで死んだのだとしても、あっさりと納得すると思う。結局私は悠紫に従う道が一番しっくりくる。たとえ、行きつく先が地獄であったとしても。

 悠紫のいないこの世での生き方は分からないけれど、死ぬことは怖い。灼熱地獄、針山地獄、いずれにせよ恐ろしい。

「最期の瞬間を一緒に過ごしてくれない?」

 十九年間生きてきて、悠紫以外で唯一ほんの少しだけ心を許せた人。一人で過ごすのはあまりに心細い最期のひと時も、彼がいれば恐怖を直視しないで済む気がした。
百合の模様の紫のノースリーブのワンピースと白いシースルーレースのカーディガン。悠紫が一番好きだった服。これが私の死に装束。