金曜日五限の大教室、後方二列目。興味のない一般教養の法学の講義に久しぶりに出席したけれど、退屈で仕方がない。そんな時はストラップをつけてペンダントがわりに首から下げた万華鏡を覗きこむ。刑法の不能犯について教授は語っていたが、鏡と紫を基調とした色とりどりのビーズが織りなす一期一会の輝きの方が大切に思えた。

 この夏恋人の悠紫にもらった、紫色の千代紙が貼られた万華鏡は私の宝物。初めて二人で万華鏡美術館に行ってから、筒の中のキラキラした世界に魅了された。

「それ、万華鏡ですか?いつも見てますよね」

 講義後、髪色こそ明るいが、いまいち垢抜けない男子に声を掛けられた。

「ロマンチックでいいっすね。よかったらこの後、ご飯行きません?」

 彼は心なしか上ずった声で私を誘う。

「悠紫に男と話すなって言われているの。ごめんなさいね」

 これまで幾度となく口にした断り文句を言い放つ。方便ではなく、真実だ。彼は気まずそうに席を立つと、友達と合流して去って行った。

「白百合姫をナンパするなんてチャレンジャーだな」

 去年も今年も夏場はよく白い百合の模様の紫色のワンピースを着ていたから、単純なことに私の通称は白百合姫というらしい。
 悠紫が一番気に入っていたのはそのワンピースだったが、どの季節も私は悠紫の選んだフェミニンな服を着ていた。