達成感に浸りながら廊下を歩き進めていると、昇降口のすぐ外に見覚えのあるしゃんと伸びた背筋を見つけた。本田だ。
空はカラッと晴れているため、傘がなくて帰れないというわけではなさそうだ。この前、どんよりした空を背負いながら帰ったくらいだから、傘を常に持っているか、濡れることを拒まないかだろうとも思う。
だれかを待っているのか。それだと邪魔になるかもしれないけれど、どうしてもお礼が言いたかった。
急いで靴を履き替え、あの、と声をかける。こういうときの声のかけ方がよくわからず、妙にかしこまった声音と呼びかけになった。
ゆっくりとこちらに目だけを向けた本田の表情は、相変わらず落ち着き払った無愛想で構成されている。
ストレートの少し長めな黒髪は、それでも清潔感に溢れているから不思議だ。そんな髪たちは少しも揺れず、本田がこちらを向くつもりのないことを表していた。
それでよかった。
むしろ、本田のことは全然知らないくせして、それのほうが本田だとぱっとわかっていいなと思うほどだった。
「なに」
「ありがとうって、言いに来た」
「……なんで?」
「この前のおまえの言葉で、息がしやすくなったっていうか。ああ俺、ちゃんと悲しかったんだなって客観的にわかってさ」
「ふうん」
本田は、いまだ、横目で俺を見ている。