今日は帰って、さっさと課題を終えて、寝てしまおう。そうしよう。
そう、したいのだけど。
このまま帰ったら、過去の自分を恨んでいたにも関わらず、課題を夜の自分へとまかせてゲームを始めるのだろう。それは避けたい。あと半年もすれば本格的に受験生なんだ、勉強しないと志望校に落ちる。
「やるか」
重い息を吐き出して、課題である数学のプリントを机の上に広げた。そのまま約一時間、淡々と問題を解いていき、ふと親指の付け根が痛いなと思う。
ああ、昔から、筆圧が強いと父親に言われてきたんだっけ。
いちど痛いと気がつくと、なんだかもう集中できそうにない。今度こそ夜の自分にまかせることにしよう。
「帰ろ」
ほとんど息でつぶやいてから、少ない荷物を詰めたリュックサックを背負って廊下に出る。教室には、残って勉強するふたりのクラスメイト。彼らはきっと、まだまだ問題を解いていくのだろう。
昇降口で靴を履き替え、外へと踏み出す。なんだか雨が降りそうだなと、鞄の中に折りたたみ傘があるかどうか、確認しようとしたときだった。
「あ」
本田と目が合った。しかも、声をもらしてしまった。
本田とは一年生のときに同じクラスで、けれどいちども話したことがなかった。気まずい。気まずくても、ぶつかったままの視線をそのままにそらすのも気まずいと思った。