家に帰ってから、ついこのあいだしまい込んだばかりのアルバムを開いた。思っていたよりも奥のほうに押しやっていたようで、取り出すときには自分の無意識のうちの行動に驚いてしまった。



追いやるのは指先ひとつで押し飛ばすくらいでできてしまうようにいつだってかんたんで、けれどそれを再び手にするには腕を、手を、指先を伸ばし続ける必要があって難しい。



記憶の中にあった、しゃぼん玉を飛ばして遊んでいる自分と父親の写真を見る。俺はしゃぼん玉なんて全然見ていなくて、父さんの手首にはめられている綺麗な青色のブレスレットばかりを指さしていた。



ああ、そうだ。



この頃、俺は父さんにべったりで、母さんはずっと写真撮影係にまわっていたんだっけ。



ページをめくって、次には、とんぼ玉のブレスレットを手にわらう俺と母さんの写真。こうして渡せば、父さんが写真を撮るほうにまわれるって。母さんも、一緒に映れるって。その次の写真に、ブレスレットを最大まで伸ばして噛み付く俺がいた。



思い出した。あのブレスレットは、幼い頃の俺が何度も何度も噛み付くから、ゴムがすっかりだめになったんだ。何度もとめられていたのに、どうしてもあの青の一粒だけでもほしくて。繋いでいる輪を噛みちぎれば、きっと手に入ると信じていて、そのせいで。



きっと噛みちぎることこそはできなかっただろうけれど、ゴムが伸びすぎるか、よだれにまみれて使いづらくなったかしたのだろう。



そうして、父さんが不器用ながらにゴムを切って、新たに買ってきたゴムにとんぼ玉を一粒ずつ通して、結び直して──いや、ちがうのか。



父さんは、俺のブレスレットをばらばらにしたがっているという願望に気がついて、叶えるためにいちどゴムを切ったんだ。



それから直して、父さん、不器用だからなあ。うまくいかなくて、俺がはめようとしたときにばちんと弾けた。



思い出したらあまりにもかんたんで、けれどずっとわすれていたこと。