「おまえのほうこそ、気にならなかったの? 父親が死んだ理由とか、俺が父親を嫌いな理由とか。そもそもなんで嫌いな父親のとんぼ玉が弾け飛ぶのを見られたのか、って」

「べつに。なんなかったね」

「じゃあお互い、そういうことだったんだね」

「だな」



本田は目を伏せて、深くふかく頷いた。



俺は、もしうわさ好きなひとたちが本田の理由の話をしていたり、憶測していたりしても、それを聞かないようにしようと決めた。



きっと、そういううわさは蔓延する。そして本田は、それを阻止しようとしてからこの学校を去るようなこともしない。曇り空の下、躊躇なく足を踏み出せるひとだから。



しないのか、できないのか、それを推し量ることもしないようにした。



俺のこの選択が、正しい正しくないであてはめるとしてどちらになるのかはわからないけれど、ふたり、おそろいのように『変な奴』になるのならば、これくらいのほうがちょうどいいのかもしれないと思った。



「あ、あと、なんでおまえに話してるのかは? 気になる?」

「……ならないよ」

「なるんだ。面白いな、おまえ」

「そんなことない」



強く、素早く否定した俺に対して、本田はかるく声をあげてわらった。



「そんなことあるよ。もっと早く、おまえと仲良くなっておけばよかった。もっと学校が楽しかったかもしれない」



本田は遠くまで広がっている青空にか、容赦なく明るい太陽にか、わらいすぎて目が開かないんだか、目を細めながら言った。



「俺も思った。最後くらい、名前で呼んどく? 俺たち、おまえ、おまえって言っててさ」

「呼ばない。次に仲良くなるひととは、絶対、名前呼びするって決めたから。今日まではおまえのままで」

「はは、そうかよ」

「うん」



もう、奴は、こちらを見ない。



「……じゃあね」

「じゃあ、いつかな」



いつか。そんなふうに残して、かるく手を振る。そのまますぐに背を向けて歩き出してしまった本田は、驚くほど上手に、似合いすぎるほど晴れやかに、青い空を背負っていた。



やっぱり、もっと早く仲良くなれていたならよかったなあと思う。



それでも、きっと、次にはもっと。