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俺と沙織は色んな屋台をまわった。
高校生の俺と中学生の姿の沙織は妹に間違えられた。
その度に、口を膨らせてすねていた沙織は可愛かった。

「楓!花火もうすぐ始まるよ」

石段を駆け上がってあのベンチに座る沙織。
はしゃいでいる沙織と反対に俺の気分は下がっていた。
花火は夏祭りのいわゆるフィナーレであるから。

二人でベンチに並ぶ。

「懐かしいね」

「そうだな……」

夜空を見上げる沙織の表情から、感情を読み取ることは出来ない。

「ねぇ、楓。この花火が終わったらまたバラバラになるね、私達」

沙織の言葉に返す言葉が一つも見つからない。

「……キスしようよ、最後に」

「え……?」

「お願い」

バンッ

夜空に大きな花が咲く。

花火によって照らされた沙織の目からは涙が流れていた。

俺は無言で顔を近づける。
そして、ニ年ぶりのキスを交わした。

「楓、大好きだよ」

「俺も好きだよ、沙織」

沙織の目からだけではなく、俺の目からも大粒の涙が流れる。

泣いているのを誤魔化すように、沙織を抱きしめる。

「また、会えてよかった」

「俺もだよ」


沙織の姿はどんどん薄くなり、夜空に消えていく。

花火と同時に沙織も消えてなくなった。


「……ッ」

口から嗚咽がもれる。

「沙織、大好き。忘れない」

夜空に向かって叫ぶ。

すると、一通の手紙が降ってきた。
差出人は沙織だった。