「話は変わるけど、ふたりとも新婚生活はどう?」
 目をキラキラさせて柚子と透子に質問してくる沙良に、柚子は苦笑する。
「楽しいです。と言いたいところなんですが、玲夜は仕事が忙しいようでなかなか一緒にいられなくて」
「あらあら。玲夜君たら、新妻を放って困ったものね。でもそういえば千夜君も今は忙しくしてるわね。一龍斎がどうとかで」
「ええ。玲夜もその件で休みが取れないようです」
「そう。それは仕方ないわね。一龍斎の件は珍しく千夜君がブチ切れてたから」
 ブチ切れる……。
 玲夜ならその光景がすぐに思い浮かんでくるのだが、千夜のブチ切れた姿はどうも想像できない。
「徹底的に追い込むらしいから、しばらく柚子ちゃんには我慢してもらわなきゃならないわね」
「みたいですね」
 もっとふたりの時間を持ちたいのだが、一龍斎に対して怒っているのは柚子も同じだ。
 長年龍を捕らえ、思いのままに操っていた彼らを柚子は許せない。
 初代花嫁の悲しすぎる歴史を知っているからなおさらだ。
 けれど、本音はまた別である。
「そう理解はしてるんですが、やっぱり一緒にいてほしいです。できるなら四六時中いてほしいぐらいなので」
 思わず惚気てしまった柚子は恥ずかしそうにはにかむと、沙良は微笑ましげに笑った。
「そうね、そうよね。だって新婚さんだもの。できるならずっと一緒がいいわよね」
「はい」
「そんなの今だけですわ」
 穏やかな空気を壊すような棘のある声。
 それは花嫁のひとりで、四十代ぐらいの年頃のご婦人だった。
 確か名前を穂香と言っただろうかと、紹介された時の記憶を思い起こす。
「一緒にいたいなんて、幻想よ。いずれ嫌になるのよ。執着も愛情の押しつけもうんざりだわ」
 憎々しげに吐き捨てた穂香の言葉に、幾人かは気まずそうに視線を逸らす。
 穂香は柚子と透子を強い眼差しで見つめる。
「きっとあなたたちも彼らの美しさと愛情の深さに酔いしれているのかもしれないけれど、そんなの今だけ。愛なんて生易しいものじゃありませんわ。彼らの花嫁に対する想いは異常よ! 皆様もそう思われるでしょう?」
 柚子はそんなことないと否定しようと思うも、その場にいた誰ひとり否定しなかった。
 それがきっと答えなのだろう。
 隣にいた透子も、穂香の言葉が間違っていないというように反論はせず苦い顔をしていた。
 出かける前の玲夜の言葉が脳裏をよぎる。
 花嫁のために作られた箱庭に嫌気がさして、夫との生活に息苦しさを感じる花嫁のためのお茶会──。
 分かった気になったようでいて、まったく分かっていなかったのかもしれない。
 こんなにも嫌悪感をあらわにされてしまうと、柚子は言葉をなくしてしまう。
 沙良に助けを求めるように見れば、困ったように眉を下げており、撫子もじっと穂香を見ていたかと思うと静かに話しかけた。
「気を落ち着けよ。なにもそなたを否定するわけではないが、この子らはまだ花嫁になったばかり。そなたの苦しみを理解するには早かろうて。今は幸せなこの子らを無為に傷つけたいわけではなかろう?」
 怒鳴るでもなく叱るでもない、落ち着いた撫子の声色に穂香も興奮が冷めていく。
「申し訳ございません、撫子様。おっしゃる通りです。柚子様、透子様、申し訳ございません」
 穂香は深く頭を下げて柚子と透子に謝罪した。
「とんでもございません」
「どうぞお気になさらず」
「ありがとうございます」
 そこでこの話は終わりだというように沙良がパンと手を叩いた。
「透子ちゃんは今は子育ての真っ只中よね? うまくやれている?」
 沙良の急な話題の変化に戸惑いながらも、透子は即座に反応する。
「はい。屋敷の者が一緒に手伝ってくれますので、なんとかやれています。鬼龍院の玲夜様にもお墨付きの霊力の高い子のようで、鬼のあやかしの方が抱っこしても泣かず、一族は大喜びしております」
 子供の話になると場の空気は一気に柔らかくなり、いたるところで子供の話で盛りあがる。
「私のところも何人もの家人が交替で見てくれるので大助かりですわ」
「ええ。私のところもよ」
「鬼の方にも抱っこされて泣かないなんて将来有望ですわね」
「うちの子なら泣いてしまうかも」
 ようやく笑い声があがりだし、穂香の表情も緩んだのを見て柚子はほっとする。
「いいわね~。私も早くおばあちゃんって呼んでほしいわ。って、こんなことを言ったらプレッシャーをかけたと玲夜君に怒られちゃうわね。まあ、どっちにしろ忙しい今の玲夜君の状況じゃあ無理そうだし、残念だけど気長に待つわ」
 本当に残念そうな顔をする沙良に、柚子はクスクスと笑った。
「沙良様は素敵なおばあ様になってくれそうなので安心です」
「同感ですわ。子が健やかに育ちそうですもの。まあ、玲夜様は少々あれですが……」
「あはは……」
 明言しない桜子の言葉がなんとなく読み取れた柚子は乾いた笑いが出る。
「あら、人のことばかりだけど、子育ては桜子ちゃんの方が大変よ。なにせ、荒鬼の子供を育てるのは並大抵の苦労じゃ済まないんだから。高道君のお母さんがどれだけ高道君に振り回されたか」
「それは高道様のお母様からお聞きして覚悟しておりますよ」
 代々当主に仕えてきた荒鬼の男は、主人と認めた者には身命をなげうつほどに心酔してきたらしい。
 高道の玲夜至上主義はいつものことだが、高道の父親もまた千夜至上主義で、その父もそのまた父も、皆主人命だったようだ。
 決して裏切らない右腕を、代々当主が重用するのは仕方ないというもの。
 玲夜も高道をかなり信頼しているのがよく分かる。
 荒鬼の男はある程度成長するまで当主の子に会わせないよう厳命されていると、以前に桜子から聞いたことがあるが、そうしないと荒鬼の男は主人第一になり、子供らしく育ってくれなくなってしまうからだという。
 どんだけなんだ、荒鬼の家系は。と、呪われているんじゃないかと感じてしまう。
「今後の教育のためにも柚子様より先に授かるといいんですが、こればかりは天からの贈りものですから」
「そうよね」
 桜子の言葉をうんうんと頷きながら聞いている沙良には悪いが、しばらく我慢してもらいたい。
「授かりものというのもそうですが、しばらく子供は考えていないんです。私も来週から学校へ行くので忙しくなりますから、子育てしている余裕がなくなってしまうので」
「そうだったわね。料理学校だったかしら?」
「はい」
「玲夜君がある日、柚子ちゃんのお店を建てたいから本家の近くでよさそうな土地はないかって聞いてきた時は驚いたわ。いくら柚子ちゃんに甘い玲夜君といえど、外で働くのを許すとは思わなかったもの。玲夜君たら忙しい最中にいくつもの土地を実際に見て回って、柚子ちゃんがお店をするのに一番条件がいい場所はどこか悩みまくってたんだから」
 柚子はそれを聞いて目を丸くした。
「玲夜が?」
「そうよ。玲夜君の屋敷近くの土地もあったんだけど、結局は本家近くの土地を選ぶ辺り、いつか本家に引っ越しても柚子ちゃんが働けるよう、将来的なことも考えた結果なんでしょうね。よかったわね、柚子ちゃん」
「はい……」
 ひとつひとつ調べ回ってくれた玲夜の姿を思い浮かべると、自然と柚子の顔に笑顔がこぼれる。
 なぜ本家近くの土地なのか不思議には思っていたのだ。
 それが、柚子の未来を考えてだと知り愛おしさがあふれる。
 柚子が料理学校に行くこともお店を持つことも未だに機会があれば辞めさせようとしているのに、まったく反対の行動をしているではないか。
 一時の話ではなく、いつまでも働けるようにと玲夜が考えていてくれたことが嬉しい。
 すると、戸惑いがちにひとりの花嫁が手をあげた。
「あの、お話しを聞いておりますと、柚子様は働かれるのですか?」
「ええ、すぐにというわけではありませんが、いずれは自分のお店で料理を出せたらと思っています」
 柚子が肯定すると、にわかにざわめきが起きる。
「それを旦那様はお許しになっているのですか?」
「一応」
 そう、一応だ。決して心から歓迎してはいない。
 だが、許してくれているのは確かだ。
 それに対して、花嫁たちはひどく驚いている。
「花嫁を働かせるあやかしなんて」
「本当かしら?」
「ありえないわ」
 ヒソヒソと交わされる言葉に困惑する柚子を、隣にいた透子が周りに見えないように肘で突き声を潜める。
「ほら言ったでしょう。花嫁を働かせるあやかしなんて珍しいの。ていうか、いないわよ」
「うーん……」
 ただ働くだけで、そこまで驚かれるほどのことではない。
 危ないこともなにもないのに、彼女たちのこの反応。
 正直、柚子の方が驚きであるが、花嫁の世界では柚子の考え方が間違っているのを肌で感じる。
「若は素直に許してくれたのかえ?」
 撫子がどこか楽しげに聞いてくる質問に、柚子は素直に答えた。
「いえ。最初はまったく許してくれなくて、大喧嘩になりました」
 花嫁たちは当然だという表情で納得している。
「けど、負けずにごねて、最後は私の意志を尊重してくれました」
「ほう。若はずいぶんとそなたの尻に敷かれておるようじゃ。愉快よの。その時の若の顔が見たかったのう」
 ほほほほっと、それはもうおかしそうに笑う撫子はなかなか笑いが収まらないようだ。
 そんな爆笑することを言ったつもりはないのだが、なにやらツボに入ったらしい。
「花嫁を働かせるあやかしなど前代未聞じゃのう」
「撫子ちゃん、笑いすぎよぉ。玲夜君がブチ切れるわよ?」
「ならばそれを柚子に止めてもらうとしよう。若がたじたじになっておる姿が拝めるしのう」
 さらに玲夜が切れそうな気がするのだが……。
「……そんな、そんな自由が許される花嫁ばかりではありませんわ」
 唇を噛みしめながら悔しそうに呟いたのは、先ほども声を荒げた穂香だ。
 穂香は柚子を一瞥してから、撫子にすがるような眼差しで懇願する。
「撫子様、もう少し花茶会の回数を増やしてはいただけませんか!? 私が呼ばれるのは年に一度か二度。それではとても足りません。私にはこの花茶会だけが心のよりどころなんです! もしこの茶会がなかったらと思うと気がおかしくなってしまいそう。そう思われてる方は私だけではございませんでしょう?」
 穂香が援護を求めるように見回せば、幾人かが声をあげた。
「私も穂香様のお気持ちがよく分かりますわ。私だって唯一この花茶会に出席する時だけが心の癒やしですもの」
「私もです。夫は私を外に出したがりませんけれど、花茶会だけは別です。なんの愁いもなく晴れやかな気持ちで家を出られるのはお茶会の時だけ。私からもお願いいたします!」
 次々にあがる苦しげな声に柚子は顔を強張らせると、彼女たちから逃げるように顔をうつむかせた。
 撫子がスッと手をあげると、それぞれの声がぴたりとやんだ。
「皆の言いたいことは分かる。しかし、妾も沙良も茶会ばかりしてもおられぬのじゃ。ほんにすまぬのう」
「ごめんなさいね、皆さん」
 撫子と沙良は花嫁たちに深く頭を下げた。
 それに慌てたのは先程まで不満を訴えていた花嫁たちの方だ。
「そんな! 私たちの我儘で頭を下げなんでくださいまし」
「申し訳ございません。撫子様と沙良様がいなければこうして外に出ることすら叶わぬのに、無理を言ってしまいました」
「おふたりが花嫁たちに心を砕いてくださっているのを皆さんよく分かっております」
「そうですとも!」
 沙良と撫子が頭をあげると、皆どこかほっとした顔をした。
 なんだかんだと微妙な空気は戻らず、その日はお開きとなってしまった。
 他の花嫁たちが帰っていった後で、柚子はテーブルに突っ伏している。
「なにやってるのよ、柚子は」
「自己嫌悪に陥ってる……」
「なんで?」
 透子には言葉にしなければ柚子の気持ちは伝わらないようだ。
「なんか自分は幸せですって自慢したみたいな形になっちゃって、他の人たちの気持ちを逆なでしたんじゃないかと……」
「あー」
 否定しないあたり、透子も若干思っているのかもしれない。
「玲夜に花茶会を始めた経緯は聞いてたんだけど、まさかあそこまで他の花嫁の人たちが不満を持ってるなんて思わなかったから、たぶんヘラヘラしてすごく傷つけちゃったかも」
 かもではなく、きっとそうだ。
「まあ、初めてのことなんだし知らなかったんだから仕方ないじゃない。私もあそこまで深刻とは思わなかったんだけど」
 いつもなら真っ先に慰めてくれる子鬼に代わり、透子がポンポンと柚子の肩を叩いて慰めてくれる。
「透子様のおっしゃるように、気になさらないで大丈夫ですよ」
 優しく声をかけてくれる桜子に癒やされる。
「そもそも今回は特に花嫁であることに不満を抱いている方を優先的に集めましたから、ひとりが不満を爆発させると決壊するのは目に見えていました。他の花嫁すべてがあの方たちのように夫である方に嫌悪を剥き出しなわけではないのですよ」
「どうして、今回はそういうメンバーだったんですか?」
「撫子様のご要望──というか、新しい花嫁おふたりへの最初の洗礼でしょうか?」
 柚子と透子は首をかしげる。
「穂香様がおっしゃっていましたが、柚子様のように自由を許してくれる旦那様ばかりとは限らないのですよ。透子様は多少窮屈な思いをされていても、外出を制限されたりはなさっていないでしょう? パーティーなどにも普通に参加されているのを拝見しますし」
「はい。そうですね」
「ですが、今日呼ばれた花嫁の旦那様は特に執着心の強い方たちなのです。パーティーはもちろん、普段の外出すら許さず、この花茶が唯一外に出られる機会という方もいらっしゃいます。新婚のおふたりには、そういう花嫁もいらっしゃるのだということを知っておいていただきたかったのです」
「花嫁に憧れる人間は多いが、その実情は決して恵まれたものとは限らぬのじゃ」
 花嫁たちを見送りにいっていた撫子が戻ってきてそうそうに話に加わる。
「以前、若に告げたことがある。花嫁とはまるで呪いのようじゃと」
「呪い……」
「若は呪いなら呪いと受け入れるが理性は捨てていないとはっきりと申しておった。だが、中には理性を捨てたあやかしもおるのだよ。瑶太がそうであろう?」
 まさかここで瑶太の名前が出てくると思わなかった柚子は目を見張る。
「花嫁のために鬼との争いも辞さぬ行動をしたあやつは間違いなく理性より感情を優先させた。先ほどの花嫁の夫たちもそうじゃ。花嫁は大事と言いながら、花嫁の心を無視して花嫁に執着しておる。まるで捕まえていないと逃げてしまうと怖れるように。妾はそんな女たちが不憫での、まるで羽根を切られた鳥のようではないか?」
 撫子が静かに語るそばで、沙良は悲しげに聞いていた。
「そんな花嫁たちからしたら柚子は恵まれておる。比較的自由な者でも外に働くのを許されるのは稀じゃろうて。そんな話を聞いて彼女らは自分と比べ落ち込んだはずじゃ」
「やっぱり……」
 柚子は頭を抱えたくなるが、撫子の話はそこで終わらない。
「だがもっと話してやっておくれ。自慢してやっておくれ」
「えっ、いいんですか? 私の話は彼女たちを傷付けるのに」
「彼女たちはな、あきらめてしまっておるのじゃ。花嫁だから仕方ない、花嫁だから家の中で大人しくしておらねばならないとな。そなたのように戦うことをやめてしまったのだよ。だから、彼女たちになにがあっても曲げぬそなたの強さを教えてやっておくれ」
「教えるもなにも、私が自由にできているのは玲夜の優しさです」
 柚子自身はただ我儘を言っていただけだ。
「そうかのう? 若と喧嘩して見事に学校に行く許可を得たのであろう? 若のあの圧力にも負けずに」
「まあ、はい。迫力だけは無駄にありました。でも花嫁だからか基本私に甘いので、最終的には玲夜が折れてくれて」
 柚子に優しい玲夜だが、学校に関するお願いをした時は思わず怖じ気付きそうなほどの威圧感があった。
 最終的には柚子の粘り勝ちである。
「それでよいのじゃ。そんな若に対しても対等に渡り合って、勝利を得た自慢を存分にしておくれ。花嫁の強みを生かして若を手のひらの上で転がす秘訣でもよいぞ」
 茶目っ気たっぷりに笑う撫子に、透子と桜子が横を向いて噴き出すのを我慢している。
「そんな話が役に立ちますか? 余計に他の花嫁たちの気持ちを逆なでしたりしたら……」
「かまわぬかまわぬ。彼女らはうちに溜め込みすぎなのじゃ。ほどよくガス抜きしてやらねばな」
「そういうものですか? それでいいなら私と透子でネタは尽きないです」
「えっ!」
 名指しさせた透子が、自分を巻きこむなと言わんばかりの表情でにらんでくるが、柚子はおかまいなしだ。
「ほほほほ。それでよい。どんな話を聞かせてくれるか、次の花茶会を楽しみにしておるよ」
「ご期待に添えるか分かりませんが、頑張ります」
 撫子がこくりと頷き、これ以上話すこともなくなったのでそろそろお暇しようとして思い出した。
「そういえば、龍は?」
 大人しくしていろと言ったら本当に今まで静かだったので、その存在を忘れていた。
 部屋の中を見回すと、どこにもその姿を見つけられない。
「ふむ。ちと待つがよい」
 撫子は口を閉ざして宙を見つめる。
 玲夜の屋敷などは玲夜が霊力で結界を張っており、その中の状況が手に取るように分かるのだ。
 どこに誰がいるかも。
 恐らくこの屋敷も撫子の力の管理下にあるのだろうと察する。
 少し待つと「見つけた」という呟きが撫子から発せられる。
「なんとまあ、予想外のところにおるようじゃ。いや、あれは確か霊獣ゆえ、おかしくもないか」
 ひとり納得する撫子に遠慮がちに話しかける柚子。
「あの、龍は見つかりましたか?」
 撫子はじっと柚子の顔を見つめたかと思うと、柚子の後ろにいる桜子に視線を移す。
「桜子。そちらの透子を先に送ってくれぬかえ? 柚子は少々遅れて帰すでな」
「承知いたしました」
 頭を下げる桜子に背を向けて撫子が歩き出したので、柚子はどうしたらいいのかと撫子の背と透子とを交互に見ながら戸惑う。
 すると、沙良が行く先を示してくれた。
「ほら、柚子ちゃん。撫子ちゃんが行っちゃうわよ。早く追いかけて」
「は、はい! 今日はありがとうございました! またね、透子」
 沙良と桜子にお辞儀をしてから透子に別れを告げると、急いで撫子を追った。