※※※※※※※※
体育祭もテストも終わり夏休みになろうとしていた。
テストの結果も今時珍しい張り出し方式で皆張り出された表に行列を作っていた。
僕は58位。自分の中では悪くはないけど母さんや父さんにとっては「普通」ではダメなのだろう。そう思いテストの順位は親に出そないことを決めた。どうせ僕のテストなんて聞いてこないし興味ないんだろうから。
「なぁなぁ、颯馬何位だった?」
「58位。夏海は?」
「え、俺?200位」
「下から数えた方が早いじゃん」
「伸び代しかないな!」
「ポジティブすぎ。もっと頑張れ」
「勉強はやる気にならないんだよな…」
「まぁ、その気持ちは分かるけども」
「てか、夏休みに夏祭りなんてあんの?」
夏海が目にしたのは順位が張り出されている紙のすぐ横に貼ってあるポスターだった。
8月の夏休み中にやっているその夏祭りは毎年学生やカップルですごい賑わっていたのを覚えている。
「その夏祭り毎年やってるよ」
「まじ?行こうかな〜」
「行ってくればいいじゃん。せっかくだし」
ここで誘えないところがほんとに意気地無しだと自分でも思う。
「じゃあ、一緒に行こうぜ」
「え、僕?」
「あれ、違う人と行く予定だった?」
「いや、ないけど」
「じゃあ、行こう!決まり」
…意図せずに一緒に行くことになってしまった。
※※※※※※※※※
夏休みに入り祭り当日。集合は夕方なのでそれまで家でゆっくりしてそろそろ出ようと準備をする。
夏海浴衣とかで来てくれないかなと想像して準備していると出ようとした時間よりも早く
かなり早く準備できてしまった。
少し部屋でゆっくりしてから行こうと思い1回の冷蔵庫に麦茶を取りに行く。
「ちょっと、颯馬。何その格好は?どこに行くの?」
「え、夏祭りに行こうと思ってたんだけど」
財布やスマホを入れたリュックも肩にかけたまま降りてきてしまっていたため母さんに見つかり突っかかられてしまった。
母さんからしたら恥晒しの僕が家の外に行くことが許せないのだろう。…いや、ただの八つ当たりかもしれない。
「あんたに夏祭りに行く余裕があると思ってるの?そんなことする時間があったら勉強でもしたらどうなの?」
「でも、約束してて…」
「あんたの約束なんか知らないわよ!あんたは『普通』じゃないんだから」
母さんの容赦のない一言が僕の心を傷つける。
やっぱり僕は「普通」じゃないと言うことをこの一言で嫌という程実感させられる。
夏海には悪いけど断るメールを送ろうと考えた時。
「ごめん、颯馬おまたせ。もう出るか?」
兄さんが後ろから元気のいい声をかけてくる。
「ごめん、母さん。夏祭りに颯馬誘ったの俺なんだ。ダメだったら行くのやめるけど…」
「あら、なんだ約束って裕太とだったの?早くそれを言いなさいよ。行ってきていいわよ。気にしないで」
母さんの態度が兄さんの登場により180度変化する。
「じゃあ、颯馬出よっか」
兄さんはそう言って僕の手を引き玄関から出る。
もう夕方前だと言うのに汗が吹き出てくるような真夏のこれでもかという暑差の中僕はそれ以上に混乱していた。
「なんで兄さんが?…」
「颯馬が困ってたからさ。約束があるんだろ?」
行ってきなさい。とでも言っているような優しい目と声に泣きそうになる。
兄さんのこういうところが憎めなかったんだ。母さんと父さんの愛情を独り占めにしていても「普通」の枠から大きくはみ出してしまった僕を決して見放してくれなかった兄さんが僕はどうしても憎めなかった。
大好きだった。
「…ありがとう兄さん!」
そう言ってもう母さんに捕まらないように後ろを振り向かず走って集合場所へ向かった。
兄さんは母さんに見つからないように小さく僕が見えなくなるまで手を振りった後
「…さて、あと数時間どこで時間を潰そうかな」
と、子猫を眺めるような優しい顔で笑うと、僕と逆の方向へ歩き出したが走り出してしまった僕はそのことを知ることはなかった。
※※※※※※※※※
約束の時間より30分も早く着いてしまい、しばらく待つことになるかと思ったが5分程したら夏海がやって来た。白のTシャツに黒の長ズボンを履いていてシンプルだが似合っていた。
浴衣ではなかったが初の私服が見れて満足である。
「あれ、颯馬早くね?」
「色々あって早く出る羽目になってさ。夏海もまだ25分前じゃん」
「楽しみで早く出ちゃたよ」
「それじゃあ、どこから行く?」
それから僕らは射的や金魚すくい、型抜きをしてみたり食べ物も夏海が全種類コンプリートしてみたい!と言い出し焼きそば、たこ焼き、りんご飴、かき氷などを平らげた。
「結構食べたな〜」
「食べ過ぎだよ夏海は」
「まぁ、金魚すくいとかでカロリー消費してるから大丈夫だろ」
「圧倒的に摂取したカロリーの方が多いけどね」
「てか、颯馬の金魚すくい笑えたよな!お前がポイ水に入れると一斉に金魚散っていくんだもんな」
「絶対夏海よりゆっくり静かに入れたはずなのにおかしいよ。おかげで1匹も取れなかったし…」
「でも、颯馬型抜きめっちゃ上手かったじゃん」
「細かい作業得意かもしれない」
「器用っていいな」
「夏海は豪快過ぎただけな気もするけどね」
「細かい作業向いてないは俺には。射的とかの方がいい…お、ベビーカステラだってよ!
行ってくる」
夏海はいったいどれだけ食べるつもりなんだ…
「買ってきた!」
近くにあったベンチで待っていると意外とすぐに夏海は戻ってきた。並んでいなかったのか?ところが夏海が手に持っているベビーカステラはすごい…ベビーカステラを屋台で買ったことの無い僕でも明らかに多いと感じる量が紙袋に入ってあった。
「…多くない?」
「サービスだってよ!ちゃんとありがとう言ってきたぜ」
いい子じゃないか。全力の笑顔で言うもんだから顔が緩んでしまう。
「全種類コンプリートしようとしてるんならきつい方向に行っちゃったんじゃない」
「そうかもしれないけど、人から親切にして貰ったんだから受け取る方がいいだろ」
人に好かれる明るくて豪快で前向きな夏海の性格が考え方にもよく滲み出ている。
「僕も食べるの手伝うよ」
「サンキュ」
ベンチに座って2人でベビーカステラを全て平らげると夏海が遂にお腹を壊しトイレへ行ってしまった。
僕ももうお腹がいっぱいでしばらく動けそうにないからここにいよう。
夏海が戻るまでこのベンチで時間を潰していると視界にある人物が映り背筋が凍る。
「あ、宮村じゃん」
その声は数年前聞いた時よりも声は低くなっていたものの顔は変わらず身長だけが伸びたような…。とても思い出したくない人だった。
「……長谷部君」
「なに、その目は?お前まだ男が好きなの?」
「君には関係ない」
もう、やめてくれ…。これ以上僕を壊さないでくれ…。塩対応を続けていればきっと反応に飽きて長谷部君もどこかへ行ってくれる。そう考え「関係ない」と「知らない」を繰り返していると今世紀で1番最悪な事件が起きた。
「おまたせ颯馬!あれ、この人だれ?うちの学校の人?」
そこに夏海が帰ってきてしまう。
タイミングが最悪だ…
さっきまであからさまに不機嫌な顔をしていた長谷部君が口角を徐々にあげていくのが分かった。
「え、何?宮村お前男と来てたの?何彼氏とか?髪の毛白いし2人揃って気色悪いな」
「は?何こいつ?」
夏海も初対面でいきなり非常識な言葉を浴びせられてムカついていたが僕はそれ以上にムカついていた。
僕はいいとしても夏海を貶された事に激怒した僕はベンチから立って夏海を連れてどこかえ行こうとしたらあろうことか長谷部君は1番言ってはいけない事をカミングアウトしてしまった。
「白髪しってたか?宮村って男が好きなんだってよ」
頭が真っ白になり壊れたパソコンのようにフリーズしている僕の耳に入った言葉は僕が想像していたあの日のような言葉とは180度も違い夏海の方を向いて今度は違う意味でフリーズし、夏海の目を見つめた。
「だから何?」
「だから何?ってなんだよ気味悪いだろだって『普通』じゃないんだぜ?」
すると、ベキッと骨が砕けるような轟音が提灯の明かりで照らされる人混みの中に響いた。夏海が長谷部君の頬を思いっきりグーで殴ったのである。
「てめぇ何す…」
長谷部君が言い切る前に倒れた長谷部君の腹部に夏海が踵落としを食らわせる。
「何?って友達を貶されたら怒る。君の大好きな『普通』だろ?てか、『普通』てなんだよ?お前の『普通』が全て正しいと思うなよ」
夏海がゴミを見るかのような目で下を見て言葉を吐き捨てると長谷部君はよろよろと立ち上がり涙目になりながら逃げていった。
黙りこくっている僕の方に夏海は体を向けるといつもより静かなで聞いていて心地よい声で僕へ言った。
「颯馬もうそろそろ花火上がるって。よく見えるところに行かね?」
※※※※※※※※※
何も言わずに夏海について行くと着いたのは河川敷の土手だった。
夜の闇がここら一帯を覆い尽くしていて人の声が遠くに聞こえる。誰一人人は居ない。
確かにここなら花火がよく見えそうなとてもいい場所だった。
だけど、雰囲気は最悪だった。
長谷部君のせいで僕が男が好きだって夏海にバレてしまった。
でも、夏海はそんな僕を「友達」と言ってくれた。少し安堵した気持ちはあったけどやっぱり気持ち悪いと思われているかもしれない。
そう思うだけであの時みたいにこの場から逃げたくなる。
好きな人からの罵声。
これ程きついものはないのだから。
どんな言葉が来てもいいように身構えていると夏海は遂に口を開いた。
「颯馬。先に言っとくけど颯馬が男が好きであろうとなんであろうと俺はなんとも思わないぞ」
「……え?」
真っ暗闇の中に赤色っぽい光に包まれる人混みを遠くで見ている夏海がそう言うものがら僕はすっとんきょな声をあげてしまった。
「てか、それくらいで俺達の友情が壊れると思うな。お前は他の人からの『普通』になんて囚われなくてもいいんだよ」
「…気持ち悪くないの?」
「は?気持ち悪いわけないだろ。誰がどんな人を好きになろうとそれはその人の自由だ!」
その声には少し怒気が入っていたがそれは全部全部僕の為を思ってくれたからでとても気分が良かった。
やっぱり僕は夏海に何度も何度も救われる。
「それに、昔俺はお前に救われたんだ」
「昔?僕達は今年の6月に初めて会ったはずじゃ…」
「それより前に実は会ってたんだよ。初対面じゃなかったんだ」
体育祭もテストも終わり夏休みになろうとしていた。
テストの結果も今時珍しい張り出し方式で皆張り出された表に行列を作っていた。
僕は58位。自分の中では悪くはないけど母さんや父さんにとっては「普通」ではダメなのだろう。そう思いテストの順位は親に出そないことを決めた。どうせ僕のテストなんて聞いてこないし興味ないんだろうから。
「なぁなぁ、颯馬何位だった?」
「58位。夏海は?」
「え、俺?200位」
「下から数えた方が早いじゃん」
「伸び代しかないな!」
「ポジティブすぎ。もっと頑張れ」
「勉強はやる気にならないんだよな…」
「まぁ、その気持ちは分かるけども」
「てか、夏休みに夏祭りなんてあんの?」
夏海が目にしたのは順位が張り出されている紙のすぐ横に貼ってあるポスターだった。
8月の夏休み中にやっているその夏祭りは毎年学生やカップルですごい賑わっていたのを覚えている。
「その夏祭り毎年やってるよ」
「まじ?行こうかな〜」
「行ってくればいいじゃん。せっかくだし」
ここで誘えないところがほんとに意気地無しだと自分でも思う。
「じゃあ、一緒に行こうぜ」
「え、僕?」
「あれ、違う人と行く予定だった?」
「いや、ないけど」
「じゃあ、行こう!決まり」
…意図せずに一緒に行くことになってしまった。
※※※※※※※※※
夏休みに入り祭り当日。集合は夕方なのでそれまで家でゆっくりしてそろそろ出ようと準備をする。
夏海浴衣とかで来てくれないかなと想像して準備していると出ようとした時間よりも早く
かなり早く準備できてしまった。
少し部屋でゆっくりしてから行こうと思い1回の冷蔵庫に麦茶を取りに行く。
「ちょっと、颯馬。何その格好は?どこに行くの?」
「え、夏祭りに行こうと思ってたんだけど」
財布やスマホを入れたリュックも肩にかけたまま降りてきてしまっていたため母さんに見つかり突っかかられてしまった。
母さんからしたら恥晒しの僕が家の外に行くことが許せないのだろう。…いや、ただの八つ当たりかもしれない。
「あんたに夏祭りに行く余裕があると思ってるの?そんなことする時間があったら勉強でもしたらどうなの?」
「でも、約束してて…」
「あんたの約束なんか知らないわよ!あんたは『普通』じゃないんだから」
母さんの容赦のない一言が僕の心を傷つける。
やっぱり僕は「普通」じゃないと言うことをこの一言で嫌という程実感させられる。
夏海には悪いけど断るメールを送ろうと考えた時。
「ごめん、颯馬おまたせ。もう出るか?」
兄さんが後ろから元気のいい声をかけてくる。
「ごめん、母さん。夏祭りに颯馬誘ったの俺なんだ。ダメだったら行くのやめるけど…」
「あら、なんだ約束って裕太とだったの?早くそれを言いなさいよ。行ってきていいわよ。気にしないで」
母さんの態度が兄さんの登場により180度変化する。
「じゃあ、颯馬出よっか」
兄さんはそう言って僕の手を引き玄関から出る。
もう夕方前だと言うのに汗が吹き出てくるような真夏のこれでもかという暑差の中僕はそれ以上に混乱していた。
「なんで兄さんが?…」
「颯馬が困ってたからさ。約束があるんだろ?」
行ってきなさい。とでも言っているような優しい目と声に泣きそうになる。
兄さんのこういうところが憎めなかったんだ。母さんと父さんの愛情を独り占めにしていても「普通」の枠から大きくはみ出してしまった僕を決して見放してくれなかった兄さんが僕はどうしても憎めなかった。
大好きだった。
「…ありがとう兄さん!」
そう言ってもう母さんに捕まらないように後ろを振り向かず走って集合場所へ向かった。
兄さんは母さんに見つからないように小さく僕が見えなくなるまで手を振りった後
「…さて、あと数時間どこで時間を潰そうかな」
と、子猫を眺めるような優しい顔で笑うと、僕と逆の方向へ歩き出したが走り出してしまった僕はそのことを知ることはなかった。
※※※※※※※※※
約束の時間より30分も早く着いてしまい、しばらく待つことになるかと思ったが5分程したら夏海がやって来た。白のTシャツに黒の長ズボンを履いていてシンプルだが似合っていた。
浴衣ではなかったが初の私服が見れて満足である。
「あれ、颯馬早くね?」
「色々あって早く出る羽目になってさ。夏海もまだ25分前じゃん」
「楽しみで早く出ちゃたよ」
「それじゃあ、どこから行く?」
それから僕らは射的や金魚すくい、型抜きをしてみたり食べ物も夏海が全種類コンプリートしてみたい!と言い出し焼きそば、たこ焼き、りんご飴、かき氷などを平らげた。
「結構食べたな〜」
「食べ過ぎだよ夏海は」
「まぁ、金魚すくいとかでカロリー消費してるから大丈夫だろ」
「圧倒的に摂取したカロリーの方が多いけどね」
「てか、颯馬の金魚すくい笑えたよな!お前がポイ水に入れると一斉に金魚散っていくんだもんな」
「絶対夏海よりゆっくり静かに入れたはずなのにおかしいよ。おかげで1匹も取れなかったし…」
「でも、颯馬型抜きめっちゃ上手かったじゃん」
「細かい作業得意かもしれない」
「器用っていいな」
「夏海は豪快過ぎただけな気もするけどね」
「細かい作業向いてないは俺には。射的とかの方がいい…お、ベビーカステラだってよ!
行ってくる」
夏海はいったいどれだけ食べるつもりなんだ…
「買ってきた!」
近くにあったベンチで待っていると意外とすぐに夏海は戻ってきた。並んでいなかったのか?ところが夏海が手に持っているベビーカステラはすごい…ベビーカステラを屋台で買ったことの無い僕でも明らかに多いと感じる量が紙袋に入ってあった。
「…多くない?」
「サービスだってよ!ちゃんとありがとう言ってきたぜ」
いい子じゃないか。全力の笑顔で言うもんだから顔が緩んでしまう。
「全種類コンプリートしようとしてるんならきつい方向に行っちゃったんじゃない」
「そうかもしれないけど、人から親切にして貰ったんだから受け取る方がいいだろ」
人に好かれる明るくて豪快で前向きな夏海の性格が考え方にもよく滲み出ている。
「僕も食べるの手伝うよ」
「サンキュ」
ベンチに座って2人でベビーカステラを全て平らげると夏海が遂にお腹を壊しトイレへ行ってしまった。
僕ももうお腹がいっぱいでしばらく動けそうにないからここにいよう。
夏海が戻るまでこのベンチで時間を潰していると視界にある人物が映り背筋が凍る。
「あ、宮村じゃん」
その声は数年前聞いた時よりも声は低くなっていたものの顔は変わらず身長だけが伸びたような…。とても思い出したくない人だった。
「……長谷部君」
「なに、その目は?お前まだ男が好きなの?」
「君には関係ない」
もう、やめてくれ…。これ以上僕を壊さないでくれ…。塩対応を続けていればきっと反応に飽きて長谷部君もどこかへ行ってくれる。そう考え「関係ない」と「知らない」を繰り返していると今世紀で1番最悪な事件が起きた。
「おまたせ颯馬!あれ、この人だれ?うちの学校の人?」
そこに夏海が帰ってきてしまう。
タイミングが最悪だ…
さっきまであからさまに不機嫌な顔をしていた長谷部君が口角を徐々にあげていくのが分かった。
「え、何?宮村お前男と来てたの?何彼氏とか?髪の毛白いし2人揃って気色悪いな」
「は?何こいつ?」
夏海も初対面でいきなり非常識な言葉を浴びせられてムカついていたが僕はそれ以上にムカついていた。
僕はいいとしても夏海を貶された事に激怒した僕はベンチから立って夏海を連れてどこかえ行こうとしたらあろうことか長谷部君は1番言ってはいけない事をカミングアウトしてしまった。
「白髪しってたか?宮村って男が好きなんだってよ」
頭が真っ白になり壊れたパソコンのようにフリーズしている僕の耳に入った言葉は僕が想像していたあの日のような言葉とは180度も違い夏海の方を向いて今度は違う意味でフリーズし、夏海の目を見つめた。
「だから何?」
「だから何?ってなんだよ気味悪いだろだって『普通』じゃないんだぜ?」
すると、ベキッと骨が砕けるような轟音が提灯の明かりで照らされる人混みの中に響いた。夏海が長谷部君の頬を思いっきりグーで殴ったのである。
「てめぇ何す…」
長谷部君が言い切る前に倒れた長谷部君の腹部に夏海が踵落としを食らわせる。
「何?って友達を貶されたら怒る。君の大好きな『普通』だろ?てか、『普通』てなんだよ?お前の『普通』が全て正しいと思うなよ」
夏海がゴミを見るかのような目で下を見て言葉を吐き捨てると長谷部君はよろよろと立ち上がり涙目になりながら逃げていった。
黙りこくっている僕の方に夏海は体を向けるといつもより静かなで聞いていて心地よい声で僕へ言った。
「颯馬もうそろそろ花火上がるって。よく見えるところに行かね?」
※※※※※※※※※
何も言わずに夏海について行くと着いたのは河川敷の土手だった。
夜の闇がここら一帯を覆い尽くしていて人の声が遠くに聞こえる。誰一人人は居ない。
確かにここなら花火がよく見えそうなとてもいい場所だった。
だけど、雰囲気は最悪だった。
長谷部君のせいで僕が男が好きだって夏海にバレてしまった。
でも、夏海はそんな僕を「友達」と言ってくれた。少し安堵した気持ちはあったけどやっぱり気持ち悪いと思われているかもしれない。
そう思うだけであの時みたいにこの場から逃げたくなる。
好きな人からの罵声。
これ程きついものはないのだから。
どんな言葉が来てもいいように身構えていると夏海は遂に口を開いた。
「颯馬。先に言っとくけど颯馬が男が好きであろうとなんであろうと俺はなんとも思わないぞ」
「……え?」
真っ暗闇の中に赤色っぽい光に包まれる人混みを遠くで見ている夏海がそう言うものがら僕はすっとんきょな声をあげてしまった。
「てか、それくらいで俺達の友情が壊れると思うな。お前は他の人からの『普通』になんて囚われなくてもいいんだよ」
「…気持ち悪くないの?」
「は?気持ち悪いわけないだろ。誰がどんな人を好きになろうとそれはその人の自由だ!」
その声には少し怒気が入っていたがそれは全部全部僕の為を思ってくれたからでとても気分が良かった。
やっぱり僕は夏海に何度も何度も救われる。
「それに、昔俺はお前に救われたんだ」
「昔?僕達は今年の6月に初めて会ったはずじゃ…」
「それより前に実は会ってたんだよ。初対面じゃなかったんだ」