俺が担当の患者には小さな女の子がいた。

俺の姪よりも小さい小学生。

その子はアイドルを目指していた。

『いつかここを退院してアイドルになってドームで歌うんだ!』

と毎日のように言っていた。

それがあの子の夢だった。

そして、その子の夢の話の最後にはいつもこう付け加えられる。

『私がアイドルになったらせんせい、私のことちゃんと見に来てよ!』

現実になることを祈っていたがその子は
不治の病にかかりいつ亡くなってもおかしくない。

だから今は。少なくとも今だけは、幸せに過ごして欲しい。

だから、私はいつも決まって

「絶対に見に行く。なにがあってもだ。」

と、毎回強く言い聞かせるように言った。

そういうと彼女は満面のひまわりのような笑顔で笑うから。

だが、ある日その子の体調が急変した。

慌ただしい看護師の足音。急いで運ばれるベットの車輪の音。少女に声をかけ続ける両親の声。

手術室に呼ばれてから一目見た瞬間にわかってしまった。

もう助からない。

目はおろか、もう耳すらまともに機能していないだろう。

絶望しているとベットに乗った彼女が弱々しく口にした。

『せんせい…見てるかな…』

息を飲んだ。

この子はきっと夢を叶えてるんだ。

ずっと、ずっとずっと願い続けてきたたった一つの大きな夢を。

きっと今彼女は多くの人から歓声を受けてステージ立っている。

私は彼女の小さくて痩せこけた手を握った。

「見てるよ…お前は夢を叶えたんだ…なにがあってもお前に会いに行くって…言っただろ…」

その瞬間彼女の口角が少しだけ持ち上がる。

『あぁ、幸せ…』

私はその日はもう泣き止むことができなかった。