*

 閉店後、閉め作業を全て終えて退勤し、店を出ると外はすでに真っ暗だった。山が多い田舎だから星空が良く見えるけど、ぼんやりと灯った街路灯が揺れているのは少し気味が悪い。
 自宅までは徒歩で二十分ほどかかる。いつもなら仕事終わりの父が車で拾ってくれるけど、今日は普段より早く帰宅したらしい。車を出すよと言ってくれたけど、「大丈夫」だと言って断った。

 私は鞄からヘッドフォンを取り出すと、スマホに繋げて動画サイトを立ち上げる。予約していた動画をタップすると、ちょうど八秒前という中途半端なカウントダウンが始まったところだった。五、四……と画面が移り変わっていくと、胸の奥でドキドキと鼓動が早くなる気がした。そして画面いっぱいに「START!」と表示されると、ヘッドフォンからギターをかき鳴らす音が流れてきた。それが次第に小さくなっていくと、今度は声が聞こえてくる。

『――こんばんは。今日もお仕事や学校、お疲れ様。アズです』

 それはまるで誰かに物語を語りかけるような、やや低めの落ち着いたトーンでアズが話し出す。

 週に一回、この時間帯から始まる一時間ほどの生配信は、一週間にあったことやアズからのお知らせ、チャットでリスナーと会話。さらに歌枠といったことが行われている。
 ほとんどラジオのようなもので、画面はアズの定例ラジオ略して「アズラジ」のロゴマークが固定で表示されている。たまにマイクスタンドと首から下――アズは大体パーカーを着ていることが多い――が映し出され、話す度に手を動かしながら話す様子が流れているときがある。
 本人曰く「ライブでも顔を出せない代わり」だという。最初の頃は固定画像のまま会話するだけだったけど、周りの意見を聞いた上でこの形が定着したらしい。SNSで告知する際に「今日のラジオは聞き流しOKだよ」だったり、「告知があるから画面を見てくれると嬉しいな」と事前に教えてくれるのはありがたい。