加藤くんが手伝ってくれるのはよかったし、助かった。
ホッと胸を撫で下ろしてダンボールの裁断に取り掛かる。
「……加藤ってさ、絶対沢多さんのこと好きだよね」
「分かる。沢多さんの言うことだけ聞くしねえ」
「沢多さんの方はどう思ってるんだろ。あんなにあからさまだと気づくよね、普通に」
近くで作業をしていた女子がコソコソと耳打ちしながら話しているのが聞こえてきた。
そっか。そうなんだ。
加藤くんは、沢多さんのことが──。
まるで別次元の話だ。
土曜日の夜に2人で肝試しをすることになったのだって、浮かれてはいけないのだろう。
どう考えたって、加藤くんと沢多さんはお似合いじゃないか。
「やっほー。お待たせ東山くん」
「こ、こんばんは」
そうしてあっという間に土曜日の夜7時になった。
どうしよう。本当に女子と2人で会っている。しかもあの沢多さんだ。
セーラー服じゃない姿を見るのははじめてだった。
駅前の改札で待っていた僕の前に、真っ白いワンピース姿の沢多さんが立っている。胸の鼓動が激しい。緊張する。
「お化け役をするから、はりきって白いワンピースにしてみたよ。どうかな?」
「ど、どうって……すっ、すごく、似合ってると思います」
「本当? お化けっぽい?」
「お化けみたいには到底み、見えないかな。爽やかで、すごく、お、お、お洒落だね」
慣れていない僕を他所に彼女はマイペースだ。
独特なテンポで話す沢多さんに簡単に呑み込まれる。
というか、墓地になんて本当に行くつもりなんだろうか。
「さては東山くん、さりげなく褒め上手ですな?」
「えっ?」
「滅多に"お洒落"なんて言わなそうなのに。ちょっと意外かも」
「いったい僕にどんなイメージを抱いていたんだ……」
「本の虫? 誰とも打ち解けようとしない。自分の世界に入るのが好きな人なのかなって、実は思ってたかも」
くるり、と沢多さんが身を翻す。
歩き始める彼女を慌てて追いかけた。
「東山くんはさ、1人でいるのは怖くないの?」
夜の喧騒の中を2人で歩く。
基本的に休みの日は家から出ないし、放課後も街で遊ぶことはなかったから、明るい街中を見るのは新鮮だった。
キラキラと光るネオン。
自動車のハイビーム。
電車が走行する音。
楽観的な人々の声。
飲食店から出てきた大人たちが、ほろ酔い気味に道を歩いている。
不思議だ。
学校がない日にあの沢多さんと会っている。
調子にのってはいけないと分かっていながらも、まるで夢心地でフワフワと浮かれた気持ちになった。
「え?」
「私はね、怖いかな。嫌でも周りのことを考える」
「沢多さんでもそんなことあるの?」
「はは、あるよ。めちゃくちゃ思う」
意外だった。
何事もそつなくこなす沢多さんが。
先生や生徒から人望も厚い沢多さんが。
常に可憐で、活発的である沢多さんが。
どうしてそんなことを僕に話してくれたんだろう。ここで気の利くセリフでも言えたらよかったんだろうが、僕にそんな力量はなく、だんまりを決め込むことしかできなかった。
「自分がどう思われてるのかを気にするし、みんなが持ってる私のイメージを壊したくない。だから完璧な自分を演じ続けてるだけだって言ったら、東山くんは信じてくれる?」
ホッと胸を撫で下ろしてダンボールの裁断に取り掛かる。
「……加藤ってさ、絶対沢多さんのこと好きだよね」
「分かる。沢多さんの言うことだけ聞くしねえ」
「沢多さんの方はどう思ってるんだろ。あんなにあからさまだと気づくよね、普通に」
近くで作業をしていた女子がコソコソと耳打ちしながら話しているのが聞こえてきた。
そっか。そうなんだ。
加藤くんは、沢多さんのことが──。
まるで別次元の話だ。
土曜日の夜に2人で肝試しをすることになったのだって、浮かれてはいけないのだろう。
どう考えたって、加藤くんと沢多さんはお似合いじゃないか。
「やっほー。お待たせ東山くん」
「こ、こんばんは」
そうしてあっという間に土曜日の夜7時になった。
どうしよう。本当に女子と2人で会っている。しかもあの沢多さんだ。
セーラー服じゃない姿を見るのははじめてだった。
駅前の改札で待っていた僕の前に、真っ白いワンピース姿の沢多さんが立っている。胸の鼓動が激しい。緊張する。
「お化け役をするから、はりきって白いワンピースにしてみたよ。どうかな?」
「ど、どうって……すっ、すごく、似合ってると思います」
「本当? お化けっぽい?」
「お化けみたいには到底み、見えないかな。爽やかで、すごく、お、お、お洒落だね」
慣れていない僕を他所に彼女はマイペースだ。
独特なテンポで話す沢多さんに簡単に呑み込まれる。
というか、墓地になんて本当に行くつもりなんだろうか。
「さては東山くん、さりげなく褒め上手ですな?」
「えっ?」
「滅多に"お洒落"なんて言わなそうなのに。ちょっと意外かも」
「いったい僕にどんなイメージを抱いていたんだ……」
「本の虫? 誰とも打ち解けようとしない。自分の世界に入るのが好きな人なのかなって、実は思ってたかも」
くるり、と沢多さんが身を翻す。
歩き始める彼女を慌てて追いかけた。
「東山くんはさ、1人でいるのは怖くないの?」
夜の喧騒の中を2人で歩く。
基本的に休みの日は家から出ないし、放課後も街で遊ぶことはなかったから、明るい街中を見るのは新鮮だった。
キラキラと光るネオン。
自動車のハイビーム。
電車が走行する音。
楽観的な人々の声。
飲食店から出てきた大人たちが、ほろ酔い気味に道を歩いている。
不思議だ。
学校がない日にあの沢多さんと会っている。
調子にのってはいけないと分かっていながらも、まるで夢心地でフワフワと浮かれた気持ちになった。
「え?」
「私はね、怖いかな。嫌でも周りのことを考える」
「沢多さんでもそんなことあるの?」
「はは、あるよ。めちゃくちゃ思う」
意外だった。
何事もそつなくこなす沢多さんが。
先生や生徒から人望も厚い沢多さんが。
常に可憐で、活発的である沢多さんが。
どうしてそんなことを僕に話してくれたんだろう。ここで気の利くセリフでも言えたらよかったんだろうが、僕にそんな力量はなく、だんまりを決め込むことしかできなかった。
「自分がどう思われてるのかを気にするし、みんなが持ってる私のイメージを壊したくない。だから完璧な自分を演じ続けてるだけだって言ったら、東山くんは信じてくれる?」