それから、文化祭の準備は着々と進んでいった。
内装設備の係になった僕は、同じく同じ係である沢多さんとともにダンボールを切り分ける作業をする。

クラスの男子と一部の女子がホストとして接客をするみたいだが、僕には到底できそうになく、当日も裏方業務をすることになった。

よくよく考えてみると、ホストクラブの内装ってどうなっているのか分からなかった。携帯で検索をしてみると、まるでキラキラした世界が広がっていてひどく胸焼けがした。


これを皆がやりたがっているのか。

あまり準備の気は進まないが、実行委員になってしまったからには全うしないといけない。沢多さんはその点さすがだった。


「沢多さん、ここ失敗しちゃって。予備の布とかないよね……?」
「ああ、貸してみて。ここはね、こうすると…」
「わっ、すごい!さすが沢多さんって何でもできちゃうんだね!」


あんなに残念そうにしていたのに、献身的にクラスのメンバーをまとめている。困っている班があれば声をかけて状況を確認している姿をぼうっと見つめてしまう。


文化祭といえば、クラス一丸となるイベント。
僕がこれまでにその輪の中に入っていたのかは疑問だったが、今回はどうなのだろう。


「あー疲れた。今日はもうやれることねぇし、俺先に帰っていい?」


すると、外装を担当している加藤くんがかったるそうな声を上げた。
廊下から心底だるそうな男子生徒が入ってくる。前が空いている学ランのジャケット。ワイシャツの中には赤いTシャツを着ている。
腰パンがトレードマークの加藤くんに、皆の視線が注目する。


「はあ〜? ダメだよ、ふざけんな!」
「あ? 中野はいちいちキーキーうるせぇな。そもそもホストクラブ?なんてよく分かんねぇもん、どうやって作るんだよ」
「あんたはいいから黙って作れ!」
「うぜーうぜー。おいお前ら、帰ってスマブラしようぜ」


当然のことながら、僕が引き止めるという選択肢はなかった。
こうしてまたこのクラスでおきている出来事を傍観する。常に当事者でいることはないんだ。


「──待ってよ加藤。力のある男子たちにお願いしたいことがあるから、まだ帰らないでほしい」


見て見ぬふりをして作業に取り掛かろうとするが、若干ピリついたこの場にクリアボイスが響いた。
沢多さんだ。


「買い出し、頼めないかな?」
「買い出し?」
「布地がこれくらいと、あとは木の板がこれくらいなんだけど。加藤たちが帰っちゃうと運ぶの大変だから」


紙切れを手に持った沢多さんが、加藤くんのもとへと歩いていく。
ひらり、スカートが揺れた。


「買い出しって、あそこのホームセンターでいいのかよ」
「そうだね。そこで大丈夫」
「ふーん。分かったわ」


メモ程度のそれをヒラヒラと確認した加藤くんは、ぶっきらぼうな態度を取りつつも依頼を引き受けてくれたようだ。

すごいな。
さすが沢多さん。みんなのリーダー的存在だ。


「なによーうざあ。加藤、やっぱり奈央ちゃんの言うことは聞くんだね」
「あ? お前は黙ってホストの服作ってろよ」
「はあ? むっかつく!」


そう思っていたけれど、中野さんと加藤くんがまた喧嘩をしていた。
悔しそうに唇を噛んでいた中野さんを一瞥して、加藤くんをはじめとする派手グループの男子たちは教室から出て行ってしまう光景を唖然と見つめてしまった。