"東山くん"と呼ぶ彼女はまるで、泣き腫らしたあとのような顔をしていた。
だからなのかもしれない。その呼び名がしっくりこなくて、むしろもっと他に、別の呼び方があったみたいな、そんな不思議な感覚があったのだ。


チリン。
──チリン。

どこかから鈴の音が聞こえてくる。


「君が手を差し伸べてくれたように、今度は私も手を伸ばすから」
「……え?」
「君があの日のことを何も覚えてなくても、私は何度だって、君の今日を繰り返してみせるよ」


沢多さんが「あのね」と口にして、涙を流しながら僕の両手を掴む。


「──私は、君が好きです」


ニャア、と猫の鳴き声が聞こえてきた。