「若葉くんっ……!!!!!!!」
──キーッ、……ドンッ!!!
そこからはスローモーションのようだった。
僕は宙に浮かんでいて、アスファルトの上で身を投げ出している奈央ちゃんのことを見下ろしていた。
地面にうまく着地することはできなかった。
道路の上に転がると、意識が遠のいていく。
ああ──、僕はトラックに轢かれたのだ。
痛みは感じなかったけれど、ただ、奈央ちゃんを守れて良かったと思った。
ぬるりとした液体は僕の血だろうか。
奈央ちゃんのところに駆け寄りたいのに、身体が動かないや。
「男の子が轢かれた……! 誰か救急車を!」
「誰か! お医者様はいらっしゃいませんか!!」
視界が霞んで暗くなっていく。
僕の目の前に、涙を浮かべている女の子が映った。
「そんなっ……嫌だっ……!!」
「……な、お……ちゃ」
「嫌だ嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だっ…!! 若葉くん!!」
そんな顔をさせちゃって、ダメだなあ、僕は。
君にはずっと笑っててほしいのに。
これは、僕が過去に戻ってきた代償だったのだろうか。
──これからたくさん思い出を作っていくつもりだったのに。
声が出ない。喉から漏れるのは乾いた空気の音だけだ。
「死なないでっ……、お願いっ、嫌っ、イヤァァァァ!!!」
死なないよ。
と、言いたかった。
でも、自分が一番分かる。
きっと僕はもうまもなく死んでしまうって。
だって、音がだんだんと聞こえなくなるんだ。目が見えなくなるんだ。
思考を通わすことができなくなるんだ。
ポタポタと涙が顔に落ちてくる。
「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、神様っ、お願いだからっ、なんでもするからっ!!」
──ああ、謝らないでおくれよ。
君は何も悪いことはしていないのに。
大好きだって、最後に言いたかった。
僕のお気に入りの本を君に読ませる約束をしていたのに。
栞のプレゼントだって、大切に使おうと思っていたのに。
「なんでもっ……するからっ、若葉くんを連れて行かないでっ!!!」
「…」
「神様っ……お願い!! お願い、だからっ」
「…」
「目を開けて。嫌……、嫌だよ。若葉くんっ!!!」
視界が真っ黒に染まる寸前に、チリンと鈴の音が鳴った。
横断歩道の少し先で、足元が透けている黒猫が僕のことを見ていた。
君、は──。
そこで視界がブラックアウトする。
まもなく、サイレンの音が鳴った。