「あーあ、残念だったなあ」
放課後、文化祭実行委員の集まりのあとに沢多さんはそんなことをぼやいていた。
僕の数歩先を歩いている彼女は、残念だったという割には笑顔を浮かべている。
あんなに票が割れるだなんて驚いた。
出し物の案の方はポンポンと上がってきていたというのに、皆そんなにホストクラブがやりたかったんだろうか。
「お化け屋敷、やりたいって言ってたもんね」
「ほんとだよ。東山くんはどっちに投票したの?」
「僕は……」
唐突に振り向かれて2、3歩後退してしまう。
恥ずかしいな。
「お、お化け屋敷の方に投票した」
沢多さんがやりたがっていたからというか、ホストクラブは自分には合わない気がしていたし、ほかの出し物と比べても一番いいかな、と思ったからで……と、無理やりな言い訳を考えた。
「よかったー。東山くんまでホストクラブ派だったらどうしようって思ったよ」
「うん、お化け屋敷の裏方をやるの、ちょっといいなって考えてたけど、ホストクラブはすごい人気だったね」
「ねー…」
進路指導室近くの廊下には、あちこちに模擬テストの案内が貼ってある。大学の案内資料は誰でも見ることができるように廊下に置いてあった。
──大学受験か。考えただけで頭が痛い。高校生であるこの時期に、人生において割と重要な決断を強いられる。
僕は心配症だから、いいところに就職をしないとまともに食べていけないだろうな、とまだ見ぬ先のことを考えてしまう。
学歴社会であるからきっと大学選びは慎重にならないといけない。
だからその分勉強も人よりうんとしなくてはいけないだろうと思うと、気落ちしてしまうのだ。
「お化け、やりたかったなー……」
沢多さんの数歩後ろを歩く僕は、彼女が再びぼやいたところで顔を上げた。
沢多さんはきっと受験も余裕なのだろう。
僕は進路指導室の近くを歩くだけで憂鬱な気持ちになるのだけれど。
「あっ、そうだいいこと考えた」
「え?」
「肝試ししない? 2人で!」
「……肝試し?」
「私がお化け役するから、東山くんは墓地を1人で歩いてよ!」
「えぇ〜?」
き、肝試し?
なんだその無茶苦茶な提案は、と予期もしない展開にパチパチと瞬きをする。
しかも肝試しって2人でするものじゃない気がするし……それって楽しいのか?
あまりに突拍子がないと思ったが、それよりも重要なことがあった。
暗くなった夜に、学校じゃない場所で沢多さんと2人で会う約束をするということと同義だということ。
「僕じゃなくても、もっと他に適役がいるんじゃ…」
仲がいい中野さんとか。加藤くんとか。
よりによって何故こんな冴えない僕なのだろうか。
沢多さんとは放課後に遊ぶような仲でもないし、なんなら話すのだって今日がはじめてなレベルなのに。
「東山くんがいいの。ていうか、東山くんが適役です」
「なんで僕……?」
「いいじゃん、付き合ってよ。アイス奢るからさ」
「ええ……でも、僕と2人で肝試しするって、楽しい?」
「楽しいと思うよ」
「絶対適当に言ってるでしょ」
「うんうん、分かった!君がそこまで言うのなら、今週の土曜日、夜7時に駅前に集合でよろしく」
「ちょっと!」
「あ、門限とかないよね?」
しかも何故か勝手に話が進んでいる。
本当に肝試しをする気なのか? 2人で? というかそもそも、僕は女子と2人で土曜日に会う約束をしたことなんてないんだぞ?
いきなり女子と休みの日に会うだなんて、僕にはとてもじゃないけれど無理だ。
「ない、けれど…でも、」
「じゃあ決定! 約束!」
ひらり、スカートが揺れる。
楽しそうに笑っている彼女が眩しく映った。
──結局、断れなかった。
沢多さんの勢いに押し負けて、僕はあっさり快諾してしまったのだ。
本気で肝試しをするつもりなのか?としばらくは半信半疑だった。僕をからかっただけなのかもしれないとも。
それくらい僕にとって、沢多さんは縁遠い存在だった。
そして、僕が知っている沢多さんはいつだって明るくて、それこそ悩みなんてないような憧れに近い存在だったのだ。
放課後、文化祭実行委員の集まりのあとに沢多さんはそんなことをぼやいていた。
僕の数歩先を歩いている彼女は、残念だったという割には笑顔を浮かべている。
あんなに票が割れるだなんて驚いた。
出し物の案の方はポンポンと上がってきていたというのに、皆そんなにホストクラブがやりたかったんだろうか。
「お化け屋敷、やりたいって言ってたもんね」
「ほんとだよ。東山くんはどっちに投票したの?」
「僕は……」
唐突に振り向かれて2、3歩後退してしまう。
恥ずかしいな。
「お、お化け屋敷の方に投票した」
沢多さんがやりたがっていたからというか、ホストクラブは自分には合わない気がしていたし、ほかの出し物と比べても一番いいかな、と思ったからで……と、無理やりな言い訳を考えた。
「よかったー。東山くんまでホストクラブ派だったらどうしようって思ったよ」
「うん、お化け屋敷の裏方をやるの、ちょっといいなって考えてたけど、ホストクラブはすごい人気だったね」
「ねー…」
進路指導室近くの廊下には、あちこちに模擬テストの案内が貼ってある。大学の案内資料は誰でも見ることができるように廊下に置いてあった。
──大学受験か。考えただけで頭が痛い。高校生であるこの時期に、人生において割と重要な決断を強いられる。
僕は心配症だから、いいところに就職をしないとまともに食べていけないだろうな、とまだ見ぬ先のことを考えてしまう。
学歴社会であるからきっと大学選びは慎重にならないといけない。
だからその分勉強も人よりうんとしなくてはいけないだろうと思うと、気落ちしてしまうのだ。
「お化け、やりたかったなー……」
沢多さんの数歩後ろを歩く僕は、彼女が再びぼやいたところで顔を上げた。
沢多さんはきっと受験も余裕なのだろう。
僕は進路指導室の近くを歩くだけで憂鬱な気持ちになるのだけれど。
「あっ、そうだいいこと考えた」
「え?」
「肝試ししない? 2人で!」
「……肝試し?」
「私がお化け役するから、東山くんは墓地を1人で歩いてよ!」
「えぇ〜?」
き、肝試し?
なんだその無茶苦茶な提案は、と予期もしない展開にパチパチと瞬きをする。
しかも肝試しって2人でするものじゃない気がするし……それって楽しいのか?
あまりに突拍子がないと思ったが、それよりも重要なことがあった。
暗くなった夜に、学校じゃない場所で沢多さんと2人で会う約束をするということと同義だということ。
「僕じゃなくても、もっと他に適役がいるんじゃ…」
仲がいい中野さんとか。加藤くんとか。
よりによって何故こんな冴えない僕なのだろうか。
沢多さんとは放課後に遊ぶような仲でもないし、なんなら話すのだって今日がはじめてなレベルなのに。
「東山くんがいいの。ていうか、東山くんが適役です」
「なんで僕……?」
「いいじゃん、付き合ってよ。アイス奢るからさ」
「ええ……でも、僕と2人で肝試しするって、楽しい?」
「楽しいと思うよ」
「絶対適当に言ってるでしょ」
「うんうん、分かった!君がそこまで言うのなら、今週の土曜日、夜7時に駅前に集合でよろしく」
「ちょっと!」
「あ、門限とかないよね?」
しかも何故か勝手に話が進んでいる。
本当に肝試しをする気なのか? 2人で? というかそもそも、僕は女子と2人で土曜日に会う約束をしたことなんてないんだぞ?
いきなり女子と休みの日に会うだなんて、僕にはとてもじゃないけれど無理だ。
「ない、けれど…でも、」
「じゃあ決定! 約束!」
ひらり、スカートが揺れる。
楽しそうに笑っている彼女が眩しく映った。
──結局、断れなかった。
沢多さんの勢いに押し負けて、僕はあっさり快諾してしまったのだ。
本気で肝試しをするつもりなのか?としばらくは半信半疑だった。僕をからかっただけなのかもしれないとも。
それくらい僕にとって、沢多さんは縁遠い存在だった。
そして、僕が知っている沢多さんはいつだって明るくて、それこそ悩みなんてないような憧れに近い存在だったのだ。