教室から出て行こうとする沢多さんの腕を掴む。
丁度、廊下から加藤くんが中に入ってくるところだった。
──もしかして、あの時屋上で見たあざは中野さんたちがつけたのではないか?
そう思ったら、止めずにはいられなかった。
「はあ? 何? きもいんだけど」
クラス全員の意識が僕に向けられる。明らかに苛立っている中野さんが舌打ちをする。
怖い。どうしよう。足がすくんでしまってしょうがない。
だけど……、だけど!!
やめさせないと。
こんな、哀しい行為は今すぐに!!
グッと唇を結んで顔を上げる。自分を奮い立たせて、ちっぽけな勇気を振り絞るんだ。
「もう、仲直りをしなよ……」
「……仲直り?」
「ぼ、僕が知るかぎりでは、君たちは本当に仲が良かったはずだよ」
「はあ?」
「違う? 違わないよね。僕は君たちと1年生の頃から同じクラスだった! 少なくともあの頃の君たちは、そんな薄っぺらい友情ごっこはしていなかったはずだよ!」
何を急に言い出すんだ、とクラスの皆が目を丸くしている。
沢多さんも驚いているのか、瞳を大きく揺らしているのが見えた。
──離さない。
離してたまるか。
もう二度とあの惨劇は目にしたくない。
「沢多さんもっ、言いたいことがあるなら、ここでいいなよっ…! 叫びたいことがあるのなら、真っ向から伝えないと! 相手には分からないことだってあるんだ!」
「東山くん……」
「さっきから何? 東山くんには関係ないよね?」
「──関係なくないっ!!」
膝がすくむ。
声が震えている。
ずっと僕は傍観者だった。部外者だった。そうしている方が楽だったからだ。
けれど、黒猫から二度目のチャンスをもらって、人とともにある強さを得た。
まだまだ怖いことはたくさんあるけれど、悲しいことはたくさんあるかもしれないけれど、きっと手を繋いだら、頑張れるんだ。
自信がないことを言い訳に、もう逃げない。
僕は君の明日のために、何度だって手を差し伸べる。
「この世の中に、関係ない人なんていないんだ! 皆何かの縁で繋がってる! それを無視することはすごくすごく酷いことだった! 僕はそれを後悔しているから、今度こそ逃げないって決めたんだ!」
「……はあ?」
「ここにいる皆も同じだよ! 沢多さんがいなくても大丈夫? そうやって見て見ぬふりをして、もしも彼女が本当に消えちゃったら、いったいどうしてくれるんだよっ!!」
はあはあ、と息を切らして言葉を並べた。
普段は黙り込んでいるような僕が取り乱しているのだから、皆は息を飲んでいるようだ。
「……ウザイ」
そんな中で、中野さんはポツリと口を開いた。
「ウザイ、ウザイウザイウザイウザイウザイウザイ、ウザイ!!」
両手を強く握って、目に涙を溜めていたのだ。
「私はね、奈央ちゃんのいい子ぶってるところが嫌いなんだよ! 心底ウザイって思ってる!」
「瑛里香、」
「誰にでも良い顔をして八方美人! 一緒に遊ぶ時も何も意見をしてこない! 綺麗事だけを並べて偽善者ぶってるのがそんなに偉いの? そうすれば穏便に済むって思ってたんだ? 私たちを馬鹿にすんのもいい加減にしろよ!」
「…そんなことはっ」
「それに、奈央ちゃん、私が加藤のこと好きって知ってたくせに、何にも言ってくれなかったじゃん!! 加藤から告られたことも、私に気を遣って黙ってたつもりだったの!? マジでそーいうのうぜぇから」
「──ちがっ、」
「違わないじゃん!! 腹を割って話してもくれないって思ってた!! 私、待ってたのに!! 奈央ちゃんから打ち明けてくれるのを待ってたのに!! 薄っぺらい配慮をしてくるだけで、どう考えたって私を馬鹿にしてるようにしか思えなかった!!」
丁度、廊下から加藤くんが中に入ってくるところだった。
──もしかして、あの時屋上で見たあざは中野さんたちがつけたのではないか?
そう思ったら、止めずにはいられなかった。
「はあ? 何? きもいんだけど」
クラス全員の意識が僕に向けられる。明らかに苛立っている中野さんが舌打ちをする。
怖い。どうしよう。足がすくんでしまってしょうがない。
だけど……、だけど!!
やめさせないと。
こんな、哀しい行為は今すぐに!!
グッと唇を結んで顔を上げる。自分を奮い立たせて、ちっぽけな勇気を振り絞るんだ。
「もう、仲直りをしなよ……」
「……仲直り?」
「ぼ、僕が知るかぎりでは、君たちは本当に仲が良かったはずだよ」
「はあ?」
「違う? 違わないよね。僕は君たちと1年生の頃から同じクラスだった! 少なくともあの頃の君たちは、そんな薄っぺらい友情ごっこはしていなかったはずだよ!」
何を急に言い出すんだ、とクラスの皆が目を丸くしている。
沢多さんも驚いているのか、瞳を大きく揺らしているのが見えた。
──離さない。
離してたまるか。
もう二度とあの惨劇は目にしたくない。
「沢多さんもっ、言いたいことがあるなら、ここでいいなよっ…! 叫びたいことがあるのなら、真っ向から伝えないと! 相手には分からないことだってあるんだ!」
「東山くん……」
「さっきから何? 東山くんには関係ないよね?」
「──関係なくないっ!!」
膝がすくむ。
声が震えている。
ずっと僕は傍観者だった。部外者だった。そうしている方が楽だったからだ。
けれど、黒猫から二度目のチャンスをもらって、人とともにある強さを得た。
まだまだ怖いことはたくさんあるけれど、悲しいことはたくさんあるかもしれないけれど、きっと手を繋いだら、頑張れるんだ。
自信がないことを言い訳に、もう逃げない。
僕は君の明日のために、何度だって手を差し伸べる。
「この世の中に、関係ない人なんていないんだ! 皆何かの縁で繋がってる! それを無視することはすごくすごく酷いことだった! 僕はそれを後悔しているから、今度こそ逃げないって決めたんだ!」
「……はあ?」
「ここにいる皆も同じだよ! 沢多さんがいなくても大丈夫? そうやって見て見ぬふりをして、もしも彼女が本当に消えちゃったら、いったいどうしてくれるんだよっ!!」
はあはあ、と息を切らして言葉を並べた。
普段は黙り込んでいるような僕が取り乱しているのだから、皆は息を飲んでいるようだ。
「……ウザイ」
そんな中で、中野さんはポツリと口を開いた。
「ウザイ、ウザイウザイウザイウザイウザイウザイ、ウザイ!!」
両手を強く握って、目に涙を溜めていたのだ。
「私はね、奈央ちゃんのいい子ぶってるところが嫌いなんだよ! 心底ウザイって思ってる!」
「瑛里香、」
「誰にでも良い顔をして八方美人! 一緒に遊ぶ時も何も意見をしてこない! 綺麗事だけを並べて偽善者ぶってるのがそんなに偉いの? そうすれば穏便に済むって思ってたんだ? 私たちを馬鹿にすんのもいい加減にしろよ!」
「…そんなことはっ」
「それに、奈央ちゃん、私が加藤のこと好きって知ってたくせに、何にも言ってくれなかったじゃん!! 加藤から告られたことも、私に気を遣って黙ってたつもりだったの!? マジでそーいうのうぜぇから」
「──ちがっ、」
「違わないじゃん!! 腹を割って話してもくれないって思ってた!! 私、待ってたのに!! 奈央ちゃんから打ち明けてくれるのを待ってたのに!! 薄っぺらい配慮をしてくるだけで、どう考えたって私を馬鹿にしてるようにしか思えなかった!!」