僕は、この日この時に君への恋を自覚した。
身の丈に合わない恋だと思った。
僕なんかが、烏滸がましいとも。

沢多さん、僕はそんな素敵な人なんかじゃないんだよ。本当さ。だって、過去に戻ってきた今でも情けないことばかりなのだから。
どうやったら君の笑顔を守れるのかと思いながらも、その役目は僕にはないような気がして落ち込んでいる。


"私は、君という人をリスペクトしてる。君みたいになりたかった"

以前の世界で沢多さんは、僕にこう告げてくれた。
僕の脳みそは平和ボケをしていたから、そんな彼女の表情を目にしてドキドキが止まらずにいたのだ。
よく考えてみると、沢多さんは"なりたかった"なんて過去形で話していた。
まるで全部を諦めてしまったみたいに笑う彼女の最後のSOSだったというのに、僕はなんて馬鹿だったのだろう。

叶いもしない。
無謀な恋。
僕と彼女では釣り合っていない。
それを──僕が勝手に決めてしまっていた。


"東山くん、私ね、後夜祭は君と一緒に過ごしたい"


沢多さんはたしかに、あの日僕を誘ってくれた。
"なあんてね"がつく、いつもの冗談だろうと自分勝手な解釈をしたのも僕だった。

自惚れてはいけない。
僕なんかと本気で後夜祭を過ごすだなんて可笑しいよ、と。
沢多さんみたいな人が、僕といたいだなんて思うわけないんだ、と。


"東山くんは何か誤解をしてるみたいだけど、私はべつにいい子なんかじゃない。君にあまり美化されたり、謙遜されすぎるのは、ちょっとしんどいかな"


──あの悲しそうな顔も忘れてない。
僕は、何も声をかけることができなかったことを後悔している。


声を出すのは、気持ちをまっすぐに伝えるのはやはりまだ怖い。
だけど、勇気を出さなくちゃいけないのだ。

後悔はもうしたくないとあの時誓ったはずだろう。
他の誰かじゃなくて、僕が彼女の心を救うのだと。


「僕、君のことをずっと、何でもできる器用な人だと思ってた。誰とでも分け隔てなく仲良くなれてしまう、すごい人なんだって」
「…うん」
「でも、そうじゃ…なかった。沢多さんは、不器用な人だった。完璧な人なんていないのに、僕はひどいことをした」
「……東山くん?」


君のために具体的に何をしてあげたらいいのかは分からない。
僕がそばにいるだけでは、きっと君の苦しみをなくす根本的な解決にはならないだろうけれど、もし、沢多さんが望んでくれているのであれば、


「あ、あのね。嫌じゃなかったら、なんだけれど、後夜祭は……僕と、一緒にいてくれないかな?」


今度は、僕から誘ってあげたいと思ったんだ。